エンリックは内容の検討書に目を通しては嬉しそうだ。
 何しろ祭り見物もろくに出来ない身。
 せめて似た雰囲気を味わいたいではないか。
 子供達も喜んでいるが、一番楽しそうなのはエンリックである。
 どんな料理や菓子が出てくるのか試食会をという案は当然却下され、マーガレットに何種類か作ってもらうだけになる。
「全部は回りきれないな。」
 どうやら自分でも視察と称して参加するつもりだ。 
 仰々しく騎士隊を配備しては興がそがれると、警護にも気を遣うのに、さらにエンリックの身辺を心配しなくてはならない近臣達は、さらに頭を悩ませる。
 当日は案内と護衛を兼ねて、サミュエルが側を離れられなくなりそうだ。
 サミュエルは会場設置図を見ながら、エンリックが歩き回りそうな場所を予想するのであった。

 青く澄んだ秋空の下。
 宮殿内部には天幕が随所に設けられ、それぞれ各地方の産物が並べられた。
 所々、飲み物や食べ物が振舞われ、野菜や果物の詰め放題という場所もある。
 工芸品の実演なども行なわれ、楽団や芸人も賑わいを添える。
 始まりの際、エンリックはバルコニーで短く挨拶をしただけで、後は自分も紛れ込む。
 乳搾りとパン作り体験の一角がある。
 どちらかというと親子向けで、エンリックのための企画ではないのだが、別に年齢制限もない。
 弓や乗馬という遊びも加えてあるのだが、それは覗く程度で構わないのだ。
 すれ違う人々の笑顔を見てはエンリックの心も弾んでいる。
 通り過ぎた人物が国王だということに気付いた人間が、どれほどいただろうか。
 夕暮れと共に、押し寄せた人波も引いていく。
 設営の後片付けに自分も手伝うといったエンリックを無理矢理、
「陛下はお疲れでしょうから、お休みになってください。」 
と、奥へと帰す。
 手伝いどころか邪魔されては叶わない。 
 遅くなって会議室に集まった臣下達には、国王陛下お手製の栗入りのパンという夜食が用意されていた。
 昼間のパン作りが気にいって、厨房でもう一度焼いたらしい。
「例年以上の豊作で何よりだった。」
 エンリックのほころぶ顔は、いかにも満足気であった。

 後日、投書箱には参加した人々の感謝の声が届けられ、さらにエンリックが王宮内の家庭菜園で、個人的な収穫を楽しげにいそしんだとは、ごく僅かな者しかしらないことである。

                               <完>



 秋の楽しみは、食べること♪
 喜びを分かり合えるのはエンリックと思って、突発的番外編。
 ダンラークの収穫祭は楽しいだろうなあ。
 エンリックはきつね狩りじゃなく、きのこ狩りがお似合いです。(笑)


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