地方で暮らす騎士にとって、都へ上るのは夢のまた夢。
しかし、めでたく仕官できる者だっている。
ディオはそんな幸運を掴んだ一人だ。
偶然、この地を訪れた王宮警護の騎士隊長の目に留まり、自分の所へと推挙されたのだ。
喜んだ彼は、一目散に隣村の幼馴染の娘に報告しに行った。
そして、告げた。彼女に。
「一緒に都へ行こう!」
だが、頷いてはくれなかった。
「おめでとう。」
仕官は祝福してくれたが、付いてはいけないと。
「どうして、アニー。」
いつかは結婚する相手だと思っていた。なのに、何故。
「弟がいるもの。」
彼女には年の離れた幼い弟が一人。両親がいないため、アニーが育てている。
「もちろん、三人で。」
「行けないわ。都の騎士様になれば、もっとふさわしい人がみつかるもの。」
アニーは、所詮、自分は田舎娘だと思っている。
都に出たところで、右往左往するだけだ。
ディオとは幼馴染のままでいい。
「ごめんなさい。」
ディオを振り切って、アニーは家へ駆け込んだ。
そして、ドアに鍵をかけてしまった。
追いかけたディオは、ドアを叩いて、叫んだ。
「また来るから!」
だが、アニーには何度来てもあえなかった。
たまに弟に会っても、
「どこへ行ったかわからない。」
と、追い返されてしまう。
避けられている。
出立の日が迫っているから、どうしても約束したかったのに。
とうとう、前日の夕方になっても、姿を見せてくれずじまいだった。
「おねえちゃん、ほんとにいいの。ディオ遠くに行くって言ってたよ。」
幼いながらも、姉の態度が気にかかったのだろう。
「いいのよ。これで。」
いずれ、自分のことなど忘れてしまうに違いない。
次の日、村はずれから、アニーはひっそりとディオを見送った。
彼は何度も後ろを振り返っていた。
まるで、アニーが駆けて来て来るのを待っているかのように。
だが、追いかけてはいかれない。
その日、アニーが泣いて夜を過ごしたことは誰か気付いたであろうか。
都に着いたディオは目まぐるしい日々を送ることになった。
さすがに、のんびりした田舎とは違う。
街中には店が立ち並び、往来は激しく人が通り過ぎる。
たまに、窓を覘いては
(こんなの似合いそうだな。)
ふと、アニーを思い出すのであった。
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