ディオを引きたてくれた騎士隊長は、面倒見の良い性格で、都では不慣れなことも多かろうと、自宅へ食事に誘ってくれることもあった。
やはり、穏やかな性格の夫人と4歳になる男の子がいる。
アニーに弟がいたことで、子供と遊びなれているディオは、たちまち好かれてしまった。
「都は若い娘も多いからな。そのうち嫁さんも見つかるさ。」
隊長としてはからかっただけだが、純朴なディオは、つい真面目に抗弁した。
「いえ、あの、私は故郷に許婚がいるんです!」
隊長も夫人も、一瞬、驚いた顔をしたが、
「何だ、そうだったのか。どうして、連れてこなかった?」
そう質問を返した。
まさか、そのつもりだったが、相手が承知してくれなかったとは今更いえない。
「生活が落ち着いたら、迎えに行くことになっています。」
夫人が笑いながら、応じた。
「まあ、女性を待たせるなんて、騎士のなさることではありませんよ。」
「そうだな。あまり長く待たせるものではないな。」
二人に畳み掛けられて、ディオはもう一度アニーのことを考えた。
そうだ!ここで退いたら男が廃る!一度や二度断られたからどうしたというのだ。
元から諦める気のなかったディオは、再びアニーに想いを寄せるのであった。
次の休暇、ディオはすっかり騎士らしくなって、アニーの前に現れた。
前触れもなしに、突然に。
あえて連絡しなかった。また居留守を使われてはたまらない。
「どうして、ディオ。」
「迎えにきたんだ。アニー。やっぱり君が好きだ。」
手土産と求婚の品の代わりに持ってきたのは、指輪でも、首飾りでもなく、靴だった。
アニーは小柄で、足も小さい。
いつも、ぼろぼろになるまで履いているのは、サイズが中々合うものがないからだ。
恋人の足のサイズを覚えていたディオは都の靴職人に頼んで、作ってもらったのだ。
「毎年、結婚記念日とクリスマスには新しい靴を贈るよ。そして、一緒に都の街を歩こう。」
ディオの正式なプロポーズ。
アニーは真新しい靴を抱きしめて、思わず返事をした。
「嬉しいわ。ディオ。」
かくして、ディオは花嫁を連れて都に帰ることができた。
密かに隊長に感謝する。
腕に良い靴職人を彼に教えてもらった。
仕立て屋でも、細工師でもなく、怪訝に思ったことだろう。
だが、ディオはがアニーが何を喜ぶか、知っていた。
アニーも、その気持ちが素直に嬉しかったたから、申し出を受けた。
彼は覚えていたのだ。
騎士として認めてもらえたら、何かプレゼントをしたいといったディオに
「靴が欲しいわ。」
と答えたアニーの言葉を・・・。
<一緒に歩こう 完>
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