ダンラーク百貨店、催事場。
現在、受付窓口と商品見本が陳列された配送ギフトセンターなっているフロアには休日だけあって
開店後、間もなく、人であふれかえっていた。
「本日はお忙しい中、お運びいただきありがとうございます。ただいま5分から10分ほどで
承っております。また配送には状況によりまして。3日から5日ほどいただいております。
またクリスマス配送、お年始のご指定も承りますので、ご利用くださいませ。」
胸の社員証だけではわからないが、社長のエンリック自ら案内をしているのだ。
ギフトセンターには、各売場の責任者達が駆り出される歳末商戦の大目玉。
特にダンラーク百貨店は試飲、試食コーナーも多く、ほとんどの品が送料無料、あるいは
送料込みというだけあって、経費削減が叫ばれる昨今でも、需要が増えている。
折を見て、他の社員と交替したエンリックは、一人の客に声をかけた。
「今日は何をお求めですか?」
取引先のドルフィシェ商事のグループ社長、クラウドだ。
せっかくなのでエンリックに挨拶をと思ったものの、タイミングを計りかねていたのである。
「忙しそうですね。」
「かきいれどきですから。今日は社用?プライベート?」
「まあ、半々です。」
混み合う中、立ち話もしてられないのでエレベーターへ向かって歩き出すと、もう一人顔見知りの
人物がいた。
カルトア物産の社長、ジェフドである。
ちょうど良かったと、一緒に売場の奥にある応接室へと誘う。
店内の喧騒も、さすがに届いてこない。
「社長さんが揃ってお出ましとは珍しい。外商通してくれれば…。それとも行ってない?」
「今日は忘年会のビンゴの景品と子供達のプレゼント選びなんです。」
会社経費では限られるので、クラウドのポケットマネーで景品を割り増ししているのだ。
「私もです。」
ビンゴの景品は多いほうが盛り上がるというものである。
「売場はマチマチだね。一括配送にする?」
「車なので大丈夫です。」
「カルトア物産の詰合せは好評だから、宅配くらいサービスするよ。」
エンリックは笑って答えた。
カルトア物産は海産物加工品の老舗だが、昔ながらの手法のため大量生産ができないため、
テナント出店はしておらず、夏冬のギフトだけ取り扱っている。
クラウドのドルフィシェ商事も交渉したことはあるのだが、注文数の対応が難しいと断られ続けだ。
もっとも何度も乗っ取られそうになっているらしく、大手との付き合いは敬遠しているのが本音と
いうところだろう。
「じゃあ、食事でも。まだ席取れるだろうから、二人ともどこがいい?」
ラーメンからフランス料理まで揃った3階分のレストランフロアは、昼時ともなれば満席で、
休日なら尚更だ。
「お気遣いなく。今日は地下の…」
「今日はマダム・ダイニングの冬季限定…」
クラウドとジェフドは、思わず顔を見合わせ、エンリックが言葉を続けた。
「きのこのつぼ焼きか〜。」
オリジナルの惣菜店「マダム・ダイニング」は、パイ皮のつぼ焼きはポテトのクリームスープが
寒い季節に温まると人気商品で、イートインで食べられる。
レストラン同様、「デパ地下発信地」といわれるほど食品街も充実している。
「つぼ焼きなら取り置きがあるから、ご馳走しよう。」
百貨店という商売柄、時間通りに食事が出来ないと見えて、他にもピロシキやキッシュなど
レンジで調理できる食品を色々常備しているらしい。
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