出立する日が近付くと、ジェフドも自分で荷造りを始めた。
 余計なものを持っていきかねないので、テイトが様子を見に行けば、案の定、妙な衣装を手にしているではないか。
「道中長いですから、竪琴は構いませんが、これは駄目です。」
 急いでジェフドから取り上げたが、前に見たものと違う。
「それ、買ったばかりなのに。」
「買った?」
 結構、上質な布のようだから、町で買い求めても値が張りそうだ。
「自分で稼いだんだから、城から持ち出したんじゃないよ。」
「本当に詩人のふりをしていらっしゃるんですか!?」
 一日にどれほどなのかわからないが、もしやルドモットやテイトが考えているより、ジェフドは収入を得ているのかの知れない。
「とにかく没収します。また荷物点検しますからね。」
 こうなると、迂闊に荷物の中に服は隠せない。
 祭りだというから、せっかく羽根を伸ばせると思ったのだが。
 前日の夜まで、テイトは調べたらしい。
 一度見た後で、その中に紛れ込ませるくらいのことはジェフドはやりかねないから。

「それでは、父上、行ってまいります。」
「道中、気をつけるのだぞ。」
 見送る側と付き添う者の不安をよそに、元気良く、ジェフドは旅立って行った。
 馬車に乗り続けとはいえ、変わる景色を見ているのは、城に閉じこもっているより、ずっと楽しい。
 いくら、ジェフドが遊びまわるにしても、限度がある。
 都の外の見物は、やはり嬉しい。
 途中、馬車を止めて休憩する時は、竪琴をかき鳴らして、気晴らししている。
 確かに、同行しているものが聞き惚れるほど上手で、趣味の範囲に止めておいてくれれば、何も言うことはないのだが。

 グレジェナに入ると、さすがにカルトアとは違った所も多く、すっかりジェフドは観光気分になっている.。
 都に差し掛かる頃は、春の祭りに関係して、人出も多く、道も混雑してくる。
「どうやら、この分だと夜になってしまうかもしれませんね。」
 「春の祭り」別名「花の祭り」
 その名の通り、春の訪れを祝う、グレジェナの祭事。
 近隣でも文化的なこの国は、行事も多い。
 中でもこの祝祭は華やかだ。
 どこもかしこも花で溢れ、着飾った人々も、皆、花を手にしている。
 話によると選りすぐった美しい娘達のパレードもあるという。
 前夜祭ともなれば、賑わって当然なのだ。

 祭りは無礼講、といわんばかりに、雰囲気を台無しにする者もいる。
 たとえば酔っぱらい。
 この種の輩は、どこにでもいる。
「おやめなさい。当家の者に何をするのです。」
 若い娘が、二、三人の若者に道をふさがれている。
 祭り見物にきた令嬢と侍女といった様子だ。
「お嬢様。」
 最初に声をかけられたのは、侍女の方らしい。
 周囲にいる者も、呆れた顔で見ている。
 その中から、一人、若者達に近寄った人物がいた。
「随分、無粋な真似をなさる。」
 見れば、フードを目深に被った旅人のようだ。
「何だ、吟遊詩人か。」
 竪琴を目にして呟いた。