カルトアの城内。
ジェフドが石造りの階段を上りきり、物見台に立った時、うっすらと白みがかった空に
かすかに明るさが見え始めていた。
眩さ共に金色の光が広がる一瞬。
新しい一年の始まる朝。
雪の積もった屋根が続く先に、青く輝く海面、遠くに地平線。
「やはり城から昇る朝日が一番だ。」
呟きながら振り返ると、テイトが頷く。
新年の夜明けを、城の一番高い場所で迎えるのは、この数年、二人の習慣だった。
もっとも自分から引き受けて、一晩中宿直のテイトのほうが早くに来ている。
「今年は二人で初めて迎える新年だというのに…。」
まだ新婚の側近にジェフドは苦笑を浮べた。
「ナーサは知ってます。」
毎年のことなので、サラティーヌの侍女のナーサが承知していて当然なのである。
長く旅していたとはいえ、いまや国王となったジェフドには居城で過ごせることのありがたみは
格別だ。
いつでも帰れる。
待っている人々がいる。
その思いあってこその放浪だったといってよい。
戦乱の最中、離れたカルトアに対する望郷の念。
いつも一緒にいたサラティーヌは傍におらず、城で迎えてくれた父は世にない。
辿り着けない距離の遠さ。
小国のはずのカルトアを、どれほど広く感じたことか。
決して渡さない。
今、目に映っているすべてがジェフドのものだ。
自分の国、自分の城。
おそらく歴代の王が同じ思いを抱いてきただろう。
見えずとも、重さと深さを、手に心に感じて。
「テイト。ライクリフは任せる。いずれカルトアを守れる騎士に…。頼む。」
「親子でいらっしゃる。先王陛下より同じ言葉を承りました。」
「父上から?」
「はい。」
カルトアは、不均衡な情勢の中におかれることが多い。
受け継ぐ者に対する願い。
どのような状況下にあっても生き抜いていかれるように。
「何と答えた?」
テイトが深く頭を下げる。
「私の力の及ぶ限りと。再び同じ返答を口にするとは夢にも思いませんでした。」
「朝陽にかけて誓ってもらったからな。」
逆光を受けながら、ジェフドは笑った。
「おめでとうございます〜。」
覚えたばかりの挨拶をしながら、部屋に戻ったジェフドにライクリフとエルリーナが駆け寄って
くる。
「晴れてよかったですわ。カルトアが一望できまして?」
サラティーヌは微笑みながら、ジェフドを迎えていると
「はい。おとうさま。おそとにいくのに、もっていかなかったの?」
エルリーナが竪琴を差し出した。
子供達は、公務でなくジェフドがいない時は竪琴を弾いている、と思い込んでいる。
あながち誤解とはいいきれないので、竪琴を受け取ると、
「今日は新しい歌を教えてあげよう。カルトアではないが、遠い平和な国の曲だよ。」
一緒にソファーに座らせた。
「年のはじめの例(ためし)とて、終わりなき世のめでたさを…。」
新たに始まるカルトア一年が楽しく、平穏であるように。
いつまでも目の前の笑顔が続くように。
お正月は初日の出ということで、こういう番外編になりました。
きっとジェフドは子供達に歌でカルトアについて伝えてしまうので
言葉で教えるのがテイトになるでしょう。(笑)
最後にジェフドが歌っている歌詞に節をつけると、唱歌「一月一日」に。
伴奏が竪琴で合うかどうかはわかりませんが、ジェフドなら大丈夫だろうと
いうことで♪
H.18.1.3