琴の調べは波の音・・・番外編
                    〜大きくなったら何になる?〜



 カルトア城内で元気な姿を見せる双子の姉弟・エルリーナとライクリフ。
 両親に似て、それはそれはかわいらしいのだが、その言動たるや幼い頃の国王ジェフドを
髣髴とさせるほど動き回り、周囲のやきもきさせている。
 王子のライクリフだけならともかく、双子ということで王女のエルリーナまで一緒なので、
 このままでは国一番の美姫ではなく国一番のおてんば姫と呼ばれるのではないか、と
父親であるジェフドは、ひそかに頭を悩ませていた。
「やっぱり遊び相手の性別が違うからか。」
「二人とも姉弟仲が良くて結構ではありませんか。」
 同じベッドで手をつないで昼寝をしている子供達の寝顔を見ながら、夫の心配を妻の
サラティーヌは笑って答えた。
 大体ジェフドは自分が出歩くのは好きで、勝手に子供達を城外に連れ出しては注意されて
いるのだ。

「おおききくなったら、おそとでおとうさまとおうたうたうの」
 ある日、無邪気なエルリーナの言葉に側近のテイトは蒼白になった。
「陛下!お子様方の前で何をなさっているのですか。」
 いまだに城を抜けだしては吟遊詩人を装い、しかも子連れと黙認してもいられない。
 ジェフドの言い分としては出かける際、二人に見つかって騒がれると困るので、つい一緒にと
いうことになる。
 竪琴を持っていれば、一曲ぐらいはという気にもなるし、エルリーナもライクリフも喜ぶ。
 もちろん聴衆がいればなおさら、である。
「エルリーナに歌わせる気はないよ。やっぱり女の子だからね。」
 子供でも器量よしで歌えるともなれば、人買いの目にもつきやすく心配なのだ。
「殿下なら良いとでも?!」
「本人がどうしてもと言えば…。」
「陛下!」
 余計な一言を付け加えたために、執務室で延々と苦言を耳にすることになったのである。
 後刻、いささか足音を高くしているテイトに、どうやら機嫌がよくないと察し、ほとんどの人は
避けるようになっている。
 誰彼構わず八つ当たりするような大人気ない真似をしたことはないのだが、近寄りがたい
雰囲気なのは確かなのだ。
 テイトが不思議に思うのは何故か王妃のサラティーヌが止めないことである。
「初めてお会いした時、陛下は詩人の格好をなさってましたもの。きっと大切な思い出
なのですわ。」
 テイトの妻、ナーサは結婚前からサラティーヌの侍女だ。
 「春の祭り」の前夜祭、酔漢にからまれそうになったところを助けてもらった時、同じ場に
いたのである。
「なまじお上手だから、陛下も自信を持たれてしまって…」
 珍しく家で愚痴めいたことをつぶやくテイトに、近頃ライクリフのお気に入りが笛のおもちゃだと
いうことを言わずに黙っていることにした。
 まだ三歳の子供のこと、単なる興味でもあるだろう。
 
「エルリーナがうたうなら、ちちうえとふえふくね。」
 ライクリフが満面の笑顔で言った時、ジェフドはテイトがいないことに安堵した。
 聞けば卒倒せんばかりに驚くに違いない。
 そして矛先は当然ジェフドに向けられただろう。
「ライクリフは笛が好きか」
「ちちうえがたてごとだから、ぼくはふえ。」
 いずれ合奏するつもりでいるらしく、ライクリフは楽しそうだ。
(10年経てば本人の意思だな)
 ジェフドは成長した息子と街中にいる情景を頭に浮かべた。
 親子揃ってテイトに叱られる日がくるかもしれない。

 いずれ先の話である。



 


 あけましておめでとうございます。
 新年恒例(?)の番外編は、双子が登場です。
 おそらく姉弟揃って街へくりだすようになるんじゃないかと。(笑)
 ジェフドの真似したら、いつのまにかご祝儀がたくさんあって、その気になったりね。
 気の毒にテイトは泣くな〜。
 王子が辻音楽師ができるくらい平和だということで。(笑)

 本年もよろしくお願いいたします♪

 平成21年1月3日


戻る