人の賑わう公園の中。
大抵、ジェフドが選ぶ「仕事場」。
近くにある教会で慈善バザーを催していたので、ジェフドはサラティーヌに言った。
「後で迎えに来るよ。」
「行ってらっしゃい。」
お互い手を振って別れる。
いつものことだ。
別にジェフドは行動を見られるのが嫌なのではなく、サラティーヌが女芸人に誤解されるといけないという理由で一緒にいない。
自分の妻を人前に出したくないという、夫のわがままの表れでもあるのだが。
まだ陽のある内にサラティーヌは公園に向かった。
時々、少し離れた場所から終わるまで見ている。
青空の下、伸びやかに詩を詠じている様子は、なんとも気分が良さそうである。
一番人だかりのできる中心にジェフドがいるのが常なのだが、何故か今日は姿が見えない。
「店じまい」には早すぎると思われるのに。
(すれ違ったのかしら。)
左右を見渡しつつ、来た方向へと戻る。
余所見をして、人にぶつかりそうになるのを避ける。
通り過ぎる瞬間、いきなり腕をつかまれる。
「ほう。旅の女か。中々、綺麗な顔をしているじゃないか。」
見れば若い男。
身なりは良いが、どことなく感じが卑しい。
どこにでもいるのだ。
若い女と侮り、絡んでくる輩は。
サラティーヌが振り払う前に、男の手が離れた。
「気安く人の妻に触れるな。」
声の主が男の腕をねじり上げている。
「何を…。」
男は顔を歪めながら、抵抗している。
「今度同じ事をしたら、この腕斬り落としてやる。」
強い語気と鋭い眼差しに怯んだのか、男は何か呟きながら去って行った。
視界から遠ざかるのを見届けて、ジェフドは愛妻に向き直る。
「大丈夫か。サラ。」
「ええ。」
「まったく。これだからシュリオンは油断がならない。」
ジェフドはサラティーヌの腕を取って、呟く。
サラティーヌはジェフドの姿に驚いている。
朝と服装が違う。
いや、それだけではない。
髪の色が明るい栗色になっている。
「この国で正体知られると困るからね。それに先刻みたいな者もいるようだし。」
ジェフドが笑った。
久々に見る騎士の格好だ。
一見、旅の剣士である。
「さすがに詩人のままで、剣を持ち歩くには目立つだろう。」
やはり騎士以外の人間が長剣を持てば、怪訝に思われる。
特にジェフド場合、旅の護身用というには、違和感がありすぎるのだ。
現在、二人はカルトアを離れ、シュリオン国内にいる。
周辺諸国一と目されるトルーマの隣国。
警戒が必要なのだ。
カルトアにとって。
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