城でクリスマスの催しをしようとは、ジェフドの発案だった。
気は抜けないというもの、ようやくカルトアも落ち着いてきたので、たまには人々共に楽しく
過ごすのも良いだろうという考えである。
庭園と広間を飾りつけ、酒と料理を振る舞い、楽団や芸人達を呼び集める。
「子供のいる家族は優先にな。」
今や二児の父親になった実感がこもった国王の言葉である。
色々と指示を出すジェフドの様子に、
「陛下は祭事には、ご熱心ですね。」
テイトが真面目とも冗談とも付かぬ風に言った。
まだ少年だった頃から、祭りといえば顔を出していたものだったが。
「私と出会ったのも祝祭でしたわ。」
サラティーヌにも懐かしい思い出。
町にいた吟遊詩人の少年。
一夜明けたら隣国の皇太子として、自分の目の前にいた。
「華やかな行事だったな。」
在りし日、ジェフドがグレジェナを訪問した時の話だ。
春の祭りに招待してくれたグレジェナ国王には感謝せねばなるまい。
お互い戦の後で国交が疎遠になりがちになってはいるが、隣国グレジェナはサラティーヌの
故郷である。
「今年は無理だが、いつかサラのご両親も招待しよう。孫達の顔を見ていただかないと。」
ジェフドは自分の父ルドモットには、子供達を抱いてもらえなかった。
サラティーヌもカルトアの地を見て欲しいと思っている。
今やジェフドが王として治めているこの国を。
瞬く間に城内は、庭師や料理人は言うに及ばず、誰もが忙しくなった。
ジェフドも指示書を片手に、毎日、城の中を歩き回っている。
クリスマスツリーになる樅の木も、ちゃんと自分で選び、家族の分はわざわざ市場まで
出向く有様だ。
あろうことか荷馬車で外に出ようとするので、慌ててテイトが引き止めた。
「陛下。どちらまで行く気ですか。」
「良い木を見つけたんで、ちょっと引き取りに。」
「別の者に行かせてください。」
まったく目を離している隙がない、という顔をテイトはジェフドに向ける。
「子供達の部屋には私が備え付けたいんだ。」
「届いてからご自身で運び込めばよろしいでしょう。」
一応、抗議はしてみたものの、通じるわけもなく、渋々ジェフドは諦めることになった。
もっとも樅の木が城に着いたと報せを受けると、早々に公務を切り上げられるよう取り計らって
くれもしたが。
「ほら、クリスマスツリーが来たぞ。」
ジェフドが樅の木を抱えて居間に入ると、満面の笑みを浮べてエルリーナとライクリフが
駆け寄ってくる。
「ちゃんと一人ずつあるから。」
子供達が背伸びして天辺に手が届く高さなのは、自分で飾りつけができるようにとの配慮だ。
もちろんサラティーヌの分も用意してある。
作り始めている飾りが、まだまだ必要なくらいだ。
夕方、テイトが呼ばれて部屋に行けば、親子揃ってツリーの周囲に集まっている。
エルリーナが小さな手に持った、色付けされたまつぼっくりを差し出した。
「おうちにかざって。」
まさか幼い姫からの頂き物を家にツリーが無いのでいらないとは断れない。