困ったような表情を浮べるテイトにジェフドが声をかけた。
「樅の木ならあるよ。」
 扉近くに置いてある大きめの樅の木。
 テイトに持って帰らせるために、呼び出したのだ。
「私は別に…。」
「今年はナーサがいるだろう。」
 二人で初めて過ごすクリスマスなのに、どうせ何もしてないと感じたジェフドの心遣いである。
 城住まいの長かったテイトは、家庭で祝うという単純なことに気付かないのだ。
「飾りは心配しなくていいのよ。ナーサと作ってますから。」
 サラティーヌに微笑みかけられたが、当然エルリーナとライクリフも一緒になってのことだと思うと、
テイトもただ頭を下げるしかないのであった。
 一足先に帰宅していたナーサは、樅の木を抱えて戸口に現れた夫の姿に少なからず驚いて、
「お帰りなさい。」 
と言うまでに間をおいてしまった。
「陛下から頂いた。どこに置く?居間がいいか。」
「ええ。」
 ナーサが隣室に繋がる戸を開いた。
 まるで関心がなさそうだったので黙っていたのだが、やはり嬉しい。
 食事の際、テーブルの脇に片付けてある籠の中に、テイトは未完成のリースを見つけた。
 ささやかながらナーサはクリスマスの準備をしていたのだ。
 あまりにテイトが興味がないようなので、言いそびれていたのか、と考えると反省してしまう。
「今度、買い物にでも行くか。色々と用意したいものもあるだろう。」
「まあ。本当ですか。」
 ナーサが素直に喜ぶと、テイトは思わずプレゼントで頭を悩ます主君を思い出してしまった。
 だからといって、欲しいものは何かとも、気恥ずかしくて口に出せなかったのである。
 ナーサに結婚指輪を贈るまで、特に人とプレゼントの遣り取りをしたことがないテイトにとっって、
無理からぬ話なのだ。
 ジェフドに相談すれば親身には聞いてくれるだろうが、ひやかしもされると想像すると、つい
ためらってしまう。
 あと思い当たる人物といえば、王妃のサラティーヌ。
「陛下とナーサには内密に。」
 テイトが真剣な顔をして、前置きをするので何事かと思えば、続いた言葉は、
「女性はどういう品がお好みなのでしょうか。」
 笑ってはいけないとサラティーヌは必死にこらえながら、
「女性が、ではなくて、ナーサが、でしょう。」
 柔らかく訂正した。
 買い物に誘ってくれたとは聞いていたが、ただ付き合つもりではなく、ジェフドに言われたわけでも
なさそうである。
 気持ちだけで充分ナーサは感激するに違いない。
 
 日に日にツリーの飾りつけが進むと共に、クリスマスも近付いてくる。
 同時に外の風景もすっかり雪化粧された。
 カルトアの冬は、町も森も白銀の世界に包まれる。
 馬車ではなく、そりが道を行き交う事もめずらしくない。
 シャンシャンと鳴る鈴の音が、ひときわ高く響き渡りそうだ。
 赤に緑、金といった華やかな色合いが、白く染まった中に美しく彩られている。
 ジェフドの私室にもクリスマスツリーのかわりに、サラティーヌお手製のドライフラワーとリボンの
リースが壁に掛かっている。
 エルリーナとライクリフは本物の雪をツリーの枝に乗せ、床を水浸しにしてしまい、先に雪に
見立てた綿を飾りつけなかったことに、ジェフドとサラティーヌは苦笑した。
 執務室でジェフドが一生懸命まつぼっくりに色を塗っているのは、楽しみをわけてあげようと
二人の子供から絵筆とまつぼっくりを箱ごと渡されてしまったからである。
 三歳児に物事の判別がつくわけがなく、父親と同様、テイトにも同じことにした。
 まさか城では出来ず、家でまつぼっくりやどんぐりに絵の具を塗っっていることを知っているのは
ナーサだけである。