地球から遠く離れた各種学校人工衛星。
ポリス・アカデミーもその内の一つに数えられる。
文字通り、警察官になるべき者達が寮生活を送っていた。
寮内の一室に、ベルが鳴る。
卒業前の貴重な休日の午前中、迷惑な話だ。
「はい?何ですかー?」
半分、寝ぼけた声でエリックが応答する。
「まだ、眠ってたのか。ヴェスナー、起きてるか。」
受付当番の腹ただしい声が耳に響く。
用があるのは、ルームメイトらしい。
ベッドの中から、黒い髪がはみ出している。
「起きてるわけないだろ。布団にくるまってるよ。」
「じゃ、叩き起こしてくれ。面会人だってな。」
それだけ言うと、通話は切れた。
呼び出された本人は目が覚める気配もない。
仕方なく、エリックは大声で叫んだ。
「起きろよ!ヴェスナー、お前に客だって!」
かすかに動いただが、起き上がってはこない。
「…俺に客なんか来ないよ…」
「そんな事知るか。早く起きろ!ヴェスナー、おい、ヴェス!」
かわりに目が覚めたエリックも機嫌が悪い。
ヴェスナーも今の言葉で、ようやく布団から手を放した。
「ヴェスって呼ぶな。女みたいだろ!」
ただでさえ、同期では年下に加え、童顔なのだ。
十八になっても、十六くらいにしか見えない事を、結構ヴェスナーは気にしている。
「まったく、誰だよ。迷惑な奴。」
ぶつくさ言いながら、部屋を出る。
(あいつ、顔洗っても、目、開いてないのか)
制服のシャツに袖を通した事は、黙っていた。まあ、軽い嫌がらせだ。
入れ違いに、もう一人のルームメイト、クリフが入ってくる。
三人、一部屋だ。
「よう、やっと起きたか。朝飯、食い損なっても知らないぞ。」
どうやら、一人だけ、ちゃっかり食堂に行ってきたようだ。
寝坊の人間に付き合う義理はない。
ついでに二人とも、寝起きが悪い。
「ヴェスナーにおいていかれたのか、お前。」
しわくちゃのベッドが空になってるのを見て、おかしそうに笑う。
「違うさ。面会の客なんだって。」
やっと、着替え終わったエリックが答える。
クリフも興味をもったようだ。
お互い、来客があったためしがない。
つい、好奇心で後を追いかける。
ヴェスナーは、一階の談話室のドアを開けた瞬間、目を見張った。
待っていた女性の顔に見覚えがある。
「なんで、こんな所に…」
途端、走り出した。
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