〜光は遠く〜



 ザフトの新型機フリーダム。
 連合に一泡吹かせてやろうと思った途端、奪取されてしまった。
 当然、プラント最高評議会は大騒ぎになる。
「またラクス・クラインか。」
「何度、事を起こせば気が済むんだ。」
 たかがアイドルと見くびってはいけない。
 無邪気な顔して、案外食わせ物なのだ、ラクスは。
「だが、良い機会かもしれない。」
 パトリック・ザラ議長が薄い笑みを浮べる。
「この際シーゲル・クラインに表舞台から消えてもらおう。できればフリーダムのパイロットも。」
 穏健派のシーゲルは目障りなのだ。
 ナチュラルと和平など、とんでもない。
 プラント最高評議会は策を講じる事にしたのである。

−シーゲル・クライン、ラクス・クライン共に連合のスパイ容疑で厳罰に処す−

 ザフト、地球軍の双方に報道が流れた。
 地球軍のパイロットと計り、フリーダムを横流ししたという。
 これは両軍に打撃を与えた。
 アスランとキラは別々の場所で、同じ言葉を発した。
「そんな馬鹿な!」
 特にキラはアークエンジェル艦内で、耳を疑った。
(僕のせいだ。)
 ラクスは、自分を逃がしてくれただけなのに。
 ムウが動揺するキラを宥めた。
「しっかりしろ。キラ。これは向こうの作戦だ。」
「何のですか。」
「決まってる。お前をおびき寄せるためにだ。いいか、裏切り者が出たなんて、普通公にしない。ましてラクス嬢は民間人の少女なんだ。管理に手落ちがあった軍に責任があってしかるべきだ。」
 フリーダムはナチュラルが簡単に操縦できるモビルスーツではない。
 ザフトもパイロットのキラがコーディネーターであることは気付いてる。
「きっと次はこう言うさ。ナチュラルはコーディネーターを、またしても利用した。やはり共存はできない。戦うしかないのだって。」
 一種の心理作戦。
 だがキラに気にするなというのは無理だ。
 せめてラクスに対する疑惑は解いてやりたい。
 その一心で格納庫に向かう。
「皆、ごめん。すぐ戻ってくるから。」
 フリーダムではなくシャトルに乗り込む。
 キラ以外動かせなくても、ザフトに返すよりマシだ。
 今更、投降する気もない。
 キラは発進した。