〜邂逅



 キラは戸惑っていた。
 ラクスのあまりにも好意的な態度に。
 負傷したキラを助けてくれたのは、彼女の優しさであるのはわかっている。
 だが、ラクスはアスランの婚約者。

 自分の手で殺してしまった親友アスラン。
 ラクスは一言もキラを責めない。
 何故?
 婚約者の仇にも関わらず、親身にしてくれる。
 それどころかキラの正体を知っていて、どこにも通報していないらしい。
「今は怪我を治すことを考えたほうがよろしいですわ。キラ。」
 だがアスランは。
 ハロを見るたびに思い出してしまう。
「キラ、また外にいましたの。傷にさわりますわ。」
 パジャマのまま、庭に出たキラを見つけて、ラクスが上着を持って現れた。
 相変わらず微笑を浮かべている。
「何で君は平気なんだ。婚約者ならもっと悲しんでやればいいじゃないか。僕はアスランを…。」
「あなたがもっと悲しくて辛い思いをしているから。」
 ラクスはキラの肩に、上着をかけながら言った。
「お互い敵同士になってしまったけれど、親友には変わりないのでしょう。」 
 滅多に自分の事を話さないアスランがする会話はキラのことばかりだった。
 そして今。
 キラもアスランのことしか口にしない。
 ラクスには少々羨ましい友情。
 自分が助かった事を喜ぶより先に、相手を悼む心がある。
 多分、戦いには向かないのだ、二人とも。
 性格が優しすぎる。
(アスランはもう戦場に赴かずにすむのですね。)
 言葉にはできない思いを、ラクスは青く広がった空に向けた。
「家の中に戻りましょう。キラ。」
 ラクスがキラを促して振り返った途端。
 瞳に映ったのは。

「ア、アスラン…?」
「キラ…!?」
 お互い目の前の人物を信じられないような顔で見つめている。
 自分の手で殺したはずの親友。
 まさか生きていたとは!
 しかも、このような場所で再会するなど、思いもしなかった。
「まあ、アスラン。無事だったのですね。どうして連絡してくださらなかったの。」
 ごくまっとうなラクスの質問。
 片腕を吊っているとはいえ、アスランはキラより怪我が軽いらしい。
「今度、転属に…。報告と挨拶、一緒がいいと思って…。療養休暇をすこし…。」
 彫像の如く立ち尽くし足したまま、アスランが答える。
 まだうわの空なのか、口調がしどろもどろだ。  
「とにかく中へ入りませんか。」
 ラクスは事も無げに、アスランとキラを誘った。

「本当に良かったですわ。二人が助かって。」
 ラクスのように素直に喜んでいいのだろうか。
「何故キラがここに。ラクス、どこにも言ってないね、このこと。」
「私は怪我をして倒れてたキラを助けただけです。」
 にっこりと微笑んで、ラクスは席を外した。
 いくらラクスが軍人ではないといっても、匿ったのがばれたらどうなるか。
 地球軍の人間。
 ましてキラはストライクのパイロット。
 向かい合わせに座ったところで、何を話せば良いのか。
「ラクスは関係ない。アスラン。」
「わかってる。」
「僕を引き渡す気か。アスラン。」
 投降したところで、命があるかどうかわからない。
 コーディネーターでナチュラルに与した裏切り者。
 非難されるだけだろう。
 それにアスランの目の前で、逝ったニコル。
 まだ十五だったのに。
「お前は仲間を殺した。」
「君だって僕の友達を殺したじゃないか…!」
 キラ一人に戦いを押し付けてはいけないと言ってくれたトール。
「友達、友達って、じゃあ、俺は何だ。キラ。」
「アスラン…。」
 もちろん、大切だ。
 だからトリイもずっと持ち歩いている。
「見捨てられないんだ。」
「俺がいるだろ!キラ!」
 アスランが叫ぶ。
「ごめん。」
 キラはうつむいたまま、言った。
 今はザフトに行けない。
「俺を見ろよ。キラ。誰よりもお前が好きだ!」
「僕だってアスランは好きだ。でも…。」
 キラはまるでわかっていない。
 アスランの「好き」はキラの「好き」とは根本的にズレている。
 アスランの告白はキラには通じなかった。
 いや、当人だって、自覚したのは、たった今だ。
「もういい。お前はキラじゃない。ラクスが拾ったただの行き倒れだ。」
 アスランは立ち上がった。
「見なかったことにしてくれるのか。ありがとう。」
 キラの瞼がうっすら濡れている。
 涙もろいところは変わってない。
「礼なんかいらない。」  
 アスランは部屋から出て行った。
(キラは馬鹿だ。)
 だが、アスラン自身も同じだ。
 敵のパイロットをみすみす見逃そうというのだから。
(俺はもっと大馬鹿か。)


「キラを頼む。」 
 アスランは帰り際、ラクスに告げた。
 本心は別の言葉。
(俺のキラを取らないでくれ!)
 アスランの頭の中に、ラクスに対して「婚約者」の文字はすでになかった。

 アスランとキラは、再び戦場でまみえるだろう。
 はたして討ち果たせるか。
 答えは、今は出せない…。



 
 とうとう書いてしまいました。SEED小説。(笑)
 難しいわ、やっぱり二次創作は。
 アスランがキラとツーショットの写真飾ってあるのが、ツボ!
 普通、男の子が友達と撮った写真、飾らないでしょう!?
 もうアスランてば、キラのこと大好きなのね♪
 それなのにキラはアスランに冷たい。
 アスランの片想いが切ないわ…。
 34話の「まなざしの先」でこんな展開になったかもという妄想です。
 お目汚しで失礼しました。(冷汗)