街角

 キラとアスランは戦後、オーブ国内の同工業じカレッジで、学生として再出発した。
 もう一度学ぶ事から始めよう。
 普通の少年が過ごす時間を取り戻したかのようだった。
 得意分野に関しては優秀な二人は単位取得も早く、卒業後について、各研究室の
教授達から残留を進められる。
「僕はカレッジに残るよ。まだ知らないことも多いし。アスランはどうするの。」
 キラは某教授の誘いを受けることに決めた。
「俺は、やってみたいことがあるから。」
 カレッジも元よりモルゲンレーテ社のスカウトもすべて断り、アスランはオーブの街中に
小さな店を開業したのである。

 風の便りに、アスランが客商売を始めたらしいと聞いたイザークとディアッカは、オーブに
来たついでに確かめにきた。
 住所を書いたメモを片手に、通りの向かい側にあるのを見つける。
 一つしかないドアは開け放されたままで、すぐに店内に入れるようになっており、二人は
足を踏み入れた途端、立ち止まってしまった。
 ガラスケースや棚に陳列された、商品と思しきものに。
 所狭しとリスやハムスターといった小動物からインコや文長の小鳥のペットロボット、奥の方には
車や動物の形をした子供用乗用車らしい物がいくつか置いてある。
「いらっしゃいませ。」
 と言おうとしたアスランも、言葉が出て来ない。
「おもちゃ屋…だったのか。」
 ディアッカが店内を見回しながら、唖然として呟いた。
「まあ、そんな感じだ。」
 生成りのデニム素材のポケット付きエプロンを首からかけたアスランが答える。
 以前から得意だったマイクロユニッ制作の特技を生かして、工房兼店舗を開いたのだ。
 ラクスのハロを面白がっていたマルキオの家の子供達に、ペットロボットを作ったことが
きっかけだった。
 喜んでもらえたことが嬉しかったのだ。
 将来、何がやりたいか迷っていたアスラン出来る事を職業にしようと、自分の店を持とうと
思いついたのである。
「ちゃんと、それぞれ機能が違うんだ。その小鳥シリーズは簡単な単語や鳴き声も入ってて、
カナリアは歌うように出来てるし、他にアラームが付いてたり、皆手乗りに作ってある。」
 アスランは久しぶりに再会した戦友に何を話していいかとまどい、とりあえずオリジナル商品の
説明を始めた。
 イザークはペットロボットの他に、バイオリンやクラリネット、ピアノなど楽器のミニチュアが
目に入った。
 原型そっくりな物から、木目調、クリスタル調。
「楽器シリーズはオルゴール。」
 イザークの視線に気がついたアスランが声をかける。
 黒いグランドピアノ。
 かつて戦渦に散ったニコルを思い出す。
 何気なくイザークが蓋を持ち上げると、曲が流れ始めた。
 涙のテーマ。
 アスランが最初に作ったオルゴールがピアノ。
 今はもういないニコルを偲んで。
 イザークは手に取って、アスランに差し出した。
「開店祝いに買ってやる。」
 まるで付け足すかのように、
「その、母への土産だ。」
 語尾が続いた。
 アスランは一瞬驚いたような顔をしたが、すぐにオルゴールを受け取ると、
「ちょっと待って。新しいの出すから。」
 売れ筋商品なのか現品の他に在庫があるらしい。
 レジ台の後ろに回り、引き出しを開けて箱を取り出した。
 薄紙にくるんであるピアノのオルゴールに傷がないか見てから、曲がかかるのを確認する。
 エザリアへのプレゼントならと、花柄の透かし模様の包装紙にリボンをかけ、小花の造花を
シールで張り付け、丁寧にラッピングしていた。
「こういうのも、お前が用意するのか。」 
 一連の作業を見ていたディアッカが珍しそうに聞いた。
 もちろんアスランが気がつくはずがない。
 ラクスやカガリ、ミリアリアなどの女友達のアドバイスによるもので、ラッピング用品の見立ても
してくれたのだ。
 オフホワイトの紙袋に箱を入れると、イザークに手渡した。
「はい、ありがとう。イザーク。」
 ザフトにいた頃は見られなかったアスランの笑顔。
 いつも無口で無表情だったのに、変わったものだ。
「どうも。」
 店の外まで見送りに出たアスランにイザークは言った。
「壊れたりしないだろうな。」
「保証期間一年の内なら、修理と交換は無償だ。」
 他の注文・修理も随時扱っているので、何かと持ち込まれることはあっても、今まで普通に
使っていてクレームがきたことはない。
「イザーク、ディアッカ、元気で。」
「お前もな、アスラン」
 
 歩き出して後方にアスランの店が見えなくなって、イザークは言った。
「ザフトの赤を着て、イージスとジャスティスのパイロットだった人間がおもちゃ屋か。」
「案外いいんじゃないか。本人も楽しそうだ。」
 別れ際、二人の目に映った店の看板。
 『Little Dream』
 アスランは作った品を求めに来る人々の笑顔を見て、自分も喜んでいる。
 もう誰も悲しんだ表情は見たくない。
 きっとイザークとディアッカが選んだ道と目指すものは同じだ。
 新しい時代に向けて、夢と希望を抱き、平和を願っている。

 

 元クルーゼ隊友情を絡めたアスラン戦後話です。
 絶対アスランはおもちゃ屋が合ってると思って。
 軍人も政治家も出来ませんよ、彼は。
 自活するなら街のおもちゃ屋さんが一番!
 本当はイザークにはデュエル、ディアッカにはバスターをと思ったけど、普通の飛行機や
 自動車ならともかく、アスランはもう戦闘に関係する物は作らないだろうと止めました。
 おもちゃ屋なので、コンセプトは「子供達にささやかな夢を」。
 店名はキラと相談して決めてます。
 いずれ安くて性能のいいおもちゃ屋として繁盛することでしょう。(笑)
 店の品揃えを考えると男の子より女の子が多いような気も…。
 下記文章はおまけとして、読んでくださいね。
 
 
<街角後日談>

 後日、プラントに戻ったディアッカから連絡がきた。
「最近、俺の目覚ましの調子悪いんだ。適当に見繕って送ってくれよ。」
 わざわざアスランに頼んだのは、「頑張れよ」という励ましである。
 ペットロボットだけでなく、からくり時計の類も置いているが、せっかくディアッカの注文だ。
 考えた挙句、アスランは工房で時計作りに精を出すことになった。

 しばらくしてディアッカの元に届けられた「目覚まし時計」は、何と雅楽アラーム付き、
鼓型インテリア時計である。
「アスラン、俺の趣味覚えてたのか…。」
 雑談の中で日舞が趣味だと語ったことがあったが、随分前の話だ。
 店内には見掛けなったから、多分特注オリジナル。
「まあ、使ってやるか。」
 おそらく歌舞音曲に疎いアスランが良く思いついたものだ。

 「Little Dream」には、間もなく雅楽シリーズというオルゴールと時計が追加されたという…。


                            <完>
 


 イザークが開店祝いをお買い上げなら、ディアッカも買うんじゃないかなーと。(笑)
 もちろん鼓は日舞からの発想ですが、イザークがグランドピアノだし、楽器つながりで
 まとまるし。
 本文に入れられなかったので、ちょっと付けたしてみました。