バレンタインに思い出を
二月十四日。
停戦したとはいえ、コーディネーターにとって悪夢の日であることは変わりない。
各地で慰霊祭が催され、アスランとキラもオーブで参加していた。
特にアスランは母のレノアを亡くしている。
もちろん彼だけでなく、多くの人々が冥福の祈りを捧げたのであった。
主催者側としてラクスとカガリも出席していて、終了後に待ち合わせることになっている。
すでにアスランとキラは軍から離れ、現在の立場は民間人。
ラクスとカガリも止めようとはしなかった。
二人は戦いに向かない、と感じていたから。
「遅いぞ!アスラン、キラ。」
カガリは自宅の玄関で出迎えて、そう言った。
「時間通りだけど。」
アスランは時計を確認して答える。
「お待ちしてましたわ。」
ラクスはいつものように微笑みかけてくれた。
言いたいことはカガリも同じなのだろう。
案内された部屋に一歩入った途端、甘い香りが漂ってくる。
テーブルの上には、色々なお茶菓子が用意されているのだが、全部がチョコレート仕立てだ。
「ほら早く座れよ。」
目を丸くして立っているアスランとキラにカガリが声をかける。
淹れてくれたコーヒーに浮べてあるのもショコラクリーム。
「ある地域では女性が男性にチョコレートを振舞う日なんですって。」
無邪気にラクスが説明する。
どうやらラクスとカガリは、かつて日本では女性が好きな男性にチョコレートを贈って告白すると
いう、独特の行事があったのを誤解して受け止めたようだ。
カガリの指に絆創膏が巻かれているのは、不慣れなお菓子作りのせいらしい。
本来、二月十四日は楽しい日のはずだった。
そう考えての行動である。
「あまりに大きな悲劇を忘れることはできません。でも、あるべき姿に重ねることも必要だと
思うのです。再び平和な時代を取り戻すために。」
穏やかにすごす一時を大切にしたいと思う気持ち。
悲しみや憎しみを抱えているだけでは前に進めない。
いつか、目の前に友達や家族がいることが、どんなに幸福なことか振り返る日にならんことを…。
<完>
SEED世界では「血のバレンタイン」の一言に尽きる二月十四日。
年頃の少年少女が揃ってるのに寂しすぎるじゃないかと、この作品。
現代日本の一大イベントが伝わってるかどうかは疑問だけど、キラは日系人(脳内確定)だし。
アスキラ間でチョコを手渡すのもいいけど、やっぱり女の子からだろうとノーマル仕上げ。
山ほどのチョコレート菓子に囲まれて、彼らはラクスとカガリ真心を味わったことでしょう。
ただ後で胸焼けや胃もたれになったかもしれませんが。