第一話

 レポーテの都、ディザ。
 王宮では国王が病のため、大わらわ。
 王妃は看病にかかりきり、第一王子、第二王子が代理で国政を執っていた。

「おいで。二人とも。」
 第三王子リュオンが幼い弟妹を呼んだ。
 まだ日中とはいえ、外は曇り空で薄暗い。
 馬に妹のマリアーナと弟のエセルを乗せる。
「どこへ行くの?お兄様。」
 マリアーナの質問に困った顔をしたリュオンは答えようがなかった。
「とばすから、手を放さないで。」
 手綱を取り、王宮から出た途端、早駆けで走り去る。
(どこでもいい。都でなければ。)
 とにかく離れたい。
 王宮にはマリアーナとエセルを置いておけない。
 所詮、側室の子はどう扱われるか、わかったものではない。
 父である国王メイティムが病気になってから、特に著しい。
 大切にされている第一王女シャルロットに比べて、何ておざなりなことか。
 マリアーナとエセルの面倒は、リュオンが見ているようなものだ。
 すでに側室だった母ローネも世にない。
 道具にされるくらいなら、王宮で暮らすより、他の場所で生きる方がましだ。
 リュオンは誰にも告げないまま、マリアーナとエセルを連れ出したのである。

 メイティムの病状は快復に向かいつつあった。
 すぐに公務に就くことは無理かもしれないが。
 第一王子カルナスと第二王子ファーゼが廊下を歩きながら窓の外を眺めている。
 暮れ時のせいもあるが、厚い雲に覆われているので、かなり重苦しい空模様だ。
 十九と十八になる王子は、まだ二人で一人前のような感じだ。
「来年くらいにはリュオンにも手伝ってもらうか。」
 ファーゼは十五になる弟を頭に浮べる。
 最近、忙しさのあまり、ろくに顔をあわせていない。
「会いに行くか。」
 カルナスも気になったらしい。
 だが、リュオンの部屋には灯もない。
 マリアーナかエセルの部屋かと思えば、どちらも暗く、人気がない。
 父の見舞いか、それともシャルロットの部屋か。
 庭園の散歩にしても、もう戻っている時刻だ。
 驚いたことには、気付いた人間がいない。
「まさか外へ?」
 ファーゼが馬小屋にリュオンの愛馬がいないことを確認する。
「一体、何をしていた!?」
 カルナスが世話係の者を集めて、叱責する。
「とにかく探せ。夜になる前に。」
 きっと天気が崩れる。
 リュオンだけでなく十一歳のマリアーナと九歳のエセルもいるのだ。
 
 三人の姿は、忽然と消えてしまった。