王宮を飛び出したリュオンは馬を走らせ続けた。
少しでも陽のある内に都を抜け出さないと、追っ手が来る。
暮れと共に、雨がぽつりぽつりと降ってくる。
街道から外れた森の中へと、方向を変える。
すっかり闇に染まる頃、小さな灯を見つけた。
都の郊外。
森番小屋かもしれない。
近寄ると門塀が現れる。
ちょうど一人の人影。
門を閉めに来たらしい。
「旅のお方ですか?お立ち寄りになりませんか。」
修道女であった。
リュオン一人ではなく、マリアーナとエセルを目にして、声をかけてくれたのだろう。
一休みするつもりで、馬を降りた。
中に入ると暖炉のある部屋へ通され、
「何もありませんが、どうぞ。体が温まりますよ。」
と木の皿のスープを出してくれた。
「ありがとうございます。」
リュオンは素直に礼を述べる。
ほとんど止まらず、馬を走らせてきた。
マリアーナとエセルは、かなり疲れているに違いない。
廊下を人の声がする。
そっと扉を開けると、夕食の時間らしく、何人もの修道女が歩いている。
(ここは女子修道院か。)
つい、妹を見る。
頃合を見て、修道女が食器を片付けにやってきた。
「あの、この子を預かってください。」
リュオンがマリアーナを自分の前に出して言った。
「お部屋なら三人分、用意しますわ。」
修道女はリュオンの言葉を誤解した。
「いえ、妹だけでいいです。」
「お兄様?」
何もわからぬように、マリアーナが問い返す。
「マリアーナ。大人になるまでここにいなさい。」
エセルを抱きかかえるように、リュオンは修道女の呼び止める声を聞かず、立ち去った。
マリアーナが自分の身の振り方を考えられるようになるまででいい。
女子修道院では、エセルは無理だろう。
まだ雨の止まぬ森の中へ、さらに走り出す。
とりあえず雨宿りをできる場所を探し求めた。
どこからか馬のいななく声が響く。
まさか追っ手かと思ったが、そうではない。
ほのかに光るのは、カンテラの灯。
小さな荷馬車がぬかるみにはまっている。
一人では車輪が外れないらしかった。
見かねてリュオンが手伝うと、
「この先まで、ご一緒しませんか。雨くらいはしのげます。」
せっかくの好意なので、受けることにした。
着いた場所は、小さな修道院。
マントを羽織っていたので気付かなかったが、男は修道士だった。
着替えとベッドを用意してもらって、エセルはすぐに眠り込んだ。