リュオンは大抵、診察室側の戸口から出入りするのだが、勝手の違う服を身に着けているせいで、裏の戸口から帰ってきた。
「お帰りなさい。お早かったですね。」
 留守番をしていたエセルが声をかける。
 マリアーナは療養所の手伝いだ。
「いつまでもこんな服、着てられないから。」
 リュオンはさっさと着替えて服を元の箱に戻し、ベッドの下へもぐりこませる。
 他に置き場所がない。
 修道院の生活に慣れてるとはいえ、エセルの目から見ても、診療所の生活空間は狭そうだ。
「兄上。お戻りにならないんですか。」
 いかにマリアーナとエセルと共に育ったとはいえ、リュオンは正妃の生んだ王子だ。
 王宮を出る謂れはないはずなのに。 
「あんな窮屈な場所、御免だ。」
 遠慮がちな顔のエセルに、リュオンは笑って答えた。
 一見、華やかできらびやかな、世間と懸け離れた王宮。
 はたして隔離されているのはどちらか。
「今はここが居場所だ。」
 モンサール修道院を後にした時、自分が必要とされる所で生きたいと願った。
 −もう一度、人の子として生きてみませんか。
 還俗の際のナティヴ院長の言葉。
 王子という枠の中では、できることが限られてしまう。
 町の片隅でこそ、一人の人間として生きる術と糧を見つけたのだ。

 
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