数日後、エセルは考えた末、リュオンに休暇をもらった。
「修道院に戻ってきます。」
「気をつけて行っておいで。」
 都に来て随分経つ。
 一度、顔を見せに行くのだろうと、リュオンは大して気にせず送り出した。
 ところが、エセルが帰っきた時は修道服ではない。
 還俗、してきたのだ。
「以前から他の方にも言われていたんです。まだ早いと。すみません、兄上に何の相談もなく…。」
「私に謝ることじゃない。エセルが決めたのなら。」
 リュオンの言葉に、尚、エセルはためらいながら、口を開いた。
「王宮から、こちらに通っても構いませんか。やはり、父上をみていると、側にいてさしあげたくて。家族が気にかかるようでは、修道士にはなれません。」
 エセルが還俗した一番の理由だ。
「喜ぶだろうな。」
 自分の意思で王宮を離れたリュオンでも、反対はできなかった。

 陽のある内にリュオンはエセルを王宮に連れて行った。
 メイティムはもちろん、デラリットも喜んだ。
「お世話になります。」
 というエセルの挨拶に、
「ただいま帰りました、だろう?」
 ファーゼが訂正する。
 家族が居間に集まった途端、リュオンはエセルを残して立去った。
 一緒に帰ってこいと勧められるような気がしたからだ。
「昔の部屋、今でも使えるから。」
 カルナスがわざわざ案内してくれた。
 皆、歓迎してくれているが、シャルロットだけ馴染みが薄い。
 やはり同性でない分、兄達より接した時間が少なかったせいだ。
 エセルは室内を見回して、懐かしさを感じながら違和感を覚えた。
 幼くして修道院生活を送ったため、自分が王子だったことに、今更ながらとまどってしまったのだ。
 弟の気持ちを察したのか、カルナスが軽く肩をたたいた。
「大丈夫、じき慣れる。」
「はい。」

 その晩、大きすぎるベッドに埋まり、高い天井を見ながら、中々エセルは寝付けなった。
 夜更けに人の気配がして、起きていること悟られないように目を瞑る。
「良かった。眠っているようだ。」
「育った場所ですもの。」
 メイティムとデラリットの声。
 心配して様子を見にきたのだろう。
 そっと毛布直して二人は出て行った。

 しばらくして、また足音がする。
「ちゃんと寝てるみたいだな。」
「ファーゼ、声が高い。目を覚ましたらどうする。」
「兄上も蝋燭近付けすぎ。」
 一瞬、眩しく思った光がベッドから遠ざかる。
 すぐに扉は閉まった。

(おやすみなさい。)
 エセルは心の中で呟き、いつの間にか眠りについた。