新しい毎日が始まったリュオンは忙しい。
 礼拝に労働に勉強にと、懸命に励んでいる。
 朝早くから夜遅くまで、これまで想像のつかなかった日々を送っていた。
 すでにモンサール修道院の修道士として過ごすと決めたからには、過去はないも同然。
 素性を知られずにすんだのが、何よりだ。
 突然舞い込んできたリュオンだが、珍しくないのか奇異な目で見るものもあまりなく、詮索もされなかった。
 妬み嫉み、陰口の温床の宮廷で育ったリュオンは、差別と偏見のない世界を初めて知ることになる。
 修道院なら当然の事だろうが、ナティヴ院長の人柄による影響もある。
 何より学術の徒を多く抱えるモンサール修道院の確固たる権威。
 慎ましさと誇りと尊厳。
 虚飾に彩られない場所。
 リュオンには自由に息ができる気分だ。
 「外」はこんなにも居心地が良かったのかと。
 生活が変わったことで、本来の生気が滲みでてきた。
「随分、元気になりましたね、リュオンは。」
 半死半生で担ぎこまれたことを知っている人間は、必ず同じ感想を持つ。
 修道服さえ着ていなければ、ただの快活な少年。
 妙に世間知らずだが、素直で明るい性格。
 戒律の中で生きるには不似合ではないかとさえ思う。
 幼くして修道院に入る人間は少なくない。
 だがリュオンは信仰心というより、学究心によって修道院に留まった感が強く見られる。
 修道士でなくても門を叩くことが許されるのに、何故か。
 楽しそうな表情を見せる時など、暗い影は微塵もない。
「人の子の成長を見守るのも、モンサールの務めです。」
 ナティヴ院長は、引きずりたくない過去を持つには早すぎるリュオンを慈愛のこもった目で、見つめるのであった。


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