リュオンが居間へ戻ると、入れ替わりのようにメイティムとデラリットが席を外した。
 主だった貴族達との祝賀の挨拶を受けなければいけないのだ。
 後でエセルも顔を出すことになっている。
 レポーテでの新年の儀式は、もう最後になるのだから。
「エセルの花嫁、見たいものだな。」
「兄上、式に来ていただけるのですか?」
 リュオンの言葉に、エセルが嬉しそうな顔をする。
「え…。」
「兄上には、是非姫を紹介したいと思ってたんです。」
「でも列席者の数が決まってるんじゃ…。」
「そうなんですか。」
 エセルがカルナスとファーゼを振り返る。
 細かい打ち合わせの内容は、エセルも知らない部分が多い。
「エセルたっての希望なら構わないよ。」
 いともあっさりとカルナスは言った。
 異母兄弟とはいえ、ローネに育てられたも同様のリュオンは、元から行かせるつもり
だったのだ。。
 喜んでるエセルを前に、可愛い弟の婚儀に行きたくないとは、リュオンも言えない。
 ラジュアまでの往復の日数を考えると、診療所を任せる人間を探すことになりそうだ。
「リュオン。朝でも夜でもいいから、往診以外に少し時間作ってくれ。」
 ファーゼが思い出したように言う。
「何かあるんですか。」
「肖像画にはモデルがいるだろう。」
「肖像画!?」
 もちろんエセルに持たせるためだ。
 家族兄弟が揃ったものをいうのは、メイティムだけでなくエセルの願いでもある。
「ところで相手の姫の肖像画はまだ届いてないのか。」
「正式にはまだですけど…。」
「エセルの部屋に飾ってありますわ。お兄様。」
 口ごもったエセルにかわりに、マリアーナが微笑を浮べて答えた。
「かなりの美姫だよ。本人はもっと綺麗らしいが。」
「ファーゼ兄上!」
 エセルが真っ赤になっている。
 個人的にシェレンから肖像画が届けられた時、エセルはつい口を滑らしてしまったのを
覚えていたのだ。
 ひとしきり歓談の後、窓の外が急に曇り始めたのを潮に、リュオンは立ち上がった。
 また雪でも降られたら、帰り道が大変である。
 エセルの部屋に立ち寄って、シェレンの肖像画を見せてもらう。
 壁にかけるような大きなものではなく、置き型の額に収められている。
 一見して美しく淑やかそうな印象で、会うのが楽しみだ。
 帰り際、マリアーナが手提げ袋を持って現れた。
「クリスマスには間に合わなくて…。」
 言い添えた通り、多分、クリスマスプレゼントのつもりで用意してくれたのだろう。
「ありがとう。」
 リュオンは礼と共にマリアーナの額にキスして王宮を後にした。

 診療所に着いて包みを開くと、毛糸のひざ掛けとベスト。
 おそらくマリアーナの手編みだろう。
「随分、器用だ。」
 丁寧な網目に感心したように、リュオンは呟いた。
 すっかり冷えてしまった部屋の中で、一層感触が温かに思えるのだった。


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