晴れた日の午後。
 ファーゼは同い年の騎士レナック一人を連れて、遠乗りに出た。
 王宮近辺の森の中を駆け抜けた後、息抜きも兼ねて、町見物。
 本来であれば気楽な次男坊なのだが父王は病、弟妹は行方知れずで、国王代理をカルナスだけに押し付けるわけにも行かない。
 往来にそれなりの活気があることに、安心する。
 人々の暮らしが立ち行かなくなっては、国の存亡に関わる。
 大通りから路地裏へ通じる間の道を一台の馬車が横切った。
 速度を落とさずに通過したため、ファーゼが馬の手綱を引くと同時に、子供の姿が映る。
 慌てて避けたのだが、バランスを崩し、身体が宙に浮く。
 何とか着地したら、足を捻ったらしい。
 つい愛馬にしがみつく。
「大丈夫ですか!騎士様。」
 馬車にも馬にも轢かれずにすんだ十歳前後の少年が側に寄ってくる。
「ああ。そちらも平気だったか。」
「はい。」
 笑顔で応えようとしたファーゼの重心が傾いた。
「騎士様、怪我?」
 大したことはないと言いかけたが、
「ここからなら若先生の診療所が近いよ。」
 少年の言葉を聞き、気が変わった。
「先に行ってくれるか。」
「はい。真っ直ぐ行った二つ目の角を右に曲がったところですから。」
 少年は勢いよく走っていった。
 レナックが青い顔をして、ファーゼの側にやってくる。
「すぐにお帰りにならないと…。」
「医者がいるなら診てもらうさ。」
 挫いた右足に痛みを感じるのは事実。
 自分の目で確かめられる、ちょうど良い機会だ。

 少年は診療所に
「先生、急患です!」
 と駆け込んできた。
 驚いたのは医師。
 さては急病か、事故か。
「あのね、騎士様が僕を避けようとして怪我したの。」
 ファーゼは明らかに少年を見て、止まろうとした。
 馬車のように素知らぬ振りして通り過ぎることもできたはずなのに。
 騎士・貴族階級の人間は主治医がいるからと、医師が滅多に診察しないので、少年は一生懸命、説明する。
 この界隈では子供でも知っていることだ。
 少年の必死の表情を見て、
(いくらなんでも、道端で怪我した人間を追い返しはしないんだけどなあ。)
 心の中で呟いた。

 少年が開け放したままの扉に人影が見えた。
 多分、少年が言っている人物だろう。
「ああ、来られたようだ。後は引き受けるから、心配しないでお帰り。」
 若い医師は椅子から立ち上がった。


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