第三十一話

 エセルはラジュアに届いた手紙を読んで、驚愕した。
「姉上が結婚…!?」
 しかも秋だということに衝撃を受けないわけにはいかない。
 シェレンとの結婚は、つい先頃である。
 すでに話が決まっていたはずなのに、あえて黙っていたというのは、エセルへの配慮に
他ならないと察し、シェレンも同様に少なからず胸を痛めた。
 ラジュアでも諸行事の予定があり、知っていればともかく、現在の帰国は難しい。
「せめてお祝いの品をお送りしましょう。エセル様。」
 シェレンに慰められるように言われて、はっとした。
「そうだ。何が良いのだろう。どうしよう。」
 幸い、シェレンの他にもエリーカ、ユミアと相談相手には事欠かない。
 女性に関することは、女性に限る。
 シャルロットの好みを姉妹に聞かれ、エセルはうろたえた。
「姉上のお好きなもの…。確か好きな色はピンクで、好きな花は薔薇、そう、ピンクの
薔薇です。」
 ただ好きな宝石については、エセルは記憶の糸を手繰っても、名前がわからなかった。
「いつも綺麗にきらきら光る装飾品を身につけていました。」
「宝石はきらきらと光っているものですわ。」
 エリーカに言われ、
「え、あの、金や銀のとても凝った細工の…。」
 一生懸命、説明しようとしても、所詮、知識のないエセルでは中々うまく伝わらない。
「落ち着いてくださいませ。お姉様の大切になさっていたものに覚えはありませんか。」
 シェレンに問われ、エセルは再び考え始め、結局、宝石箱の中身を見せてもらい、
特に気にいっていた髪飾りを思い出した。
 デラリットに問い合わせれば、他にも細かく教えてもらえるだろうが、レポーテから返事を
待っているだけの日数がないのだ。
 シェレン達は肖像画でしかシャルロットを知らないが、人並以上に美しいのはわかる。
「お兄様。シェレンお姉様とどちらが綺麗?」
 不意にユミアに訊ねられたエセルは、さっと頬に朱が走り、
「それは…。」
 口ごもりながら、つい傍らに座っているシェレンに視線を移した。
「そんな質問をするものではないわ。」
 エセルが困ってることを察したシェレンが、妹に向かいたしなめる。
「あら、どうして。一番綺麗だと思うのは自分の妻ではないの?」
 ユミアが無邪気に聞き返すと、
「男の方にとって、一番美しいと思うのはお母様なのよ。」
 シェレンが微笑みながら言った。
 以前、ロテスから聞いた話である。
 夫に対し、決して嫉妬してはいけない人物は実の母親だと。
 意識したことはなかったが、自分が結婚し思い出した。
 特にエセルは幼い頃、生母を亡くしている。
 姉のマリアーナが良く似ていたとはいえ、年月と共に面影が美化されていても、少しも
不思議ではない。
「では、女にとっての理想はお父様になるのかしら。」
 エリーカが腑に落ちない顔をしている。
 どう考えてもロテスとエセルは、性格も容姿も違うではないか。
 ユミアも同じらしいが、
「私は別の方がいいわ。もっと…。」
 咄嗟に思い浮かんでこないようだ。
 ラジュアの王女達に、まだ結婚は先の話にすぎず、現在は仲の良い姉夫婦が、憧れの
対象なのだった。