新年だけはリュオンもほとんど強制的に呼び出される形で王宮にやってきた。
国民の前での挨拶さえしてしまえば他に用もないはずなのだが、ラジュアの使者には、
儀礼上顔を出さざるを得ない。
エセルは、ロテスに気にいられてシェレンの婿に迎えられたものの、性急すぎた感は
否めないのだろう。
心配りのつもりなのか、かなり頻繁に使いが行き来している。
エセルとシェレンが仲睦まじい様子を聞くのは良いのだが、宮廷内に足を踏み込めば、何かと
耳に入ってくる話も多い。
最近はやたらとカルナスの結婚に関する類のものが多く、リュオンも
(兄上も大変だ)
くらいに思っていたのだが、マリアーナに対しては過敏になる。
シャルロットが嫁いだ後、妹姫に関心が集まり、噂の種にもなろうが、実際に縁談が
起きているとなれば話は別だ。
−テッセルの王子が執心で、すでに使者を何回も送り込んできている。−
足早にメイティムの姿を探すリュオンに、私室近くの廊下で会ったカルナスとファーゼが
「父上なら謁見中だが、どうかしたか?」
と訊ねると、
「どうもこうも、兄上達はご存知なんですか!?マリアーナにテッセルから…!」
リュオンが声を高くすると、慌てて周囲を見回したカルナスが、とりあえず自分の部屋へ
連れて行った。
「本当なんですか!」
詰め寄るリュオンに、二人の兄は顔を見合わせた。
「…エセルの結婚式でマリアーナに一目惚れしたそうだ。…」
カルナスが仕方なさそうに言った。
どうもリュオンはエセルとマリアーナが絡むと冷静に話ができないらしい。
「何ですか、それ。」
「だから、ラジュアでのエセルとシェレン姫の婚儀の招待客の中にいたテッセルの第二王子が
マリアーナを見て、申し込んできたんだ。」
テッセルから最初の使者が訪れたのは、ほとんど帰国直後と思われる頃である。
すでにシャルロットの降嫁が内定していたレポーテでは、とてもマリアーナの縁談を考える余裕は
ないと断った。
ただでさえ、立て続けの慶事で、準備も大変だったのだ。
しかし、事情を知っておとなしくなったのも束の間、シャルロットが嫁いで間もなく、矢継ぎ早に
是非ご再考を、と言ってきたのである。
頻繁にテッセルから使者が来るようになれば、メイティムの一存で返答するわけにもいかなく
なってしまう。
重臣達の間にも、今すぐでなくてもいずれはと、考える者も少なくない。
メイティムとしては、エセルをレポーテから出してしまった以上、マリアーナまで手放す気になれず、
会っているはずのカルナスさえ顔もうろ覚えであり、第一マリアーナが記憶しているかどうか。
とても本人に伝えられる話ではなく、宮廷内でも限られた人間しか知らなかったはずだが、
度重なるテッセルの使者の姿に、いつの間にか漏れ始めてしまった。
一度、噂が流れれば広まりはしてもおさまることはない。
ろくに顔を出さないリュオンに伝わるくらいでは、マリアーナが知るのも時間の問題だろう。
「まったく何を考えてる、父上は。無理矢理生ませた挙句に、結局は利用するつもりか。あの母上を
望んだのは、父上本人なのに…!」
リュオンの言葉に、ファーゼは思わず弟の肩を掴んだ。
「リュオン、一体何を知ってる!?」
知っているというより、隠してるといった方がいいのかもしれない。
「直接、聞けばよいでしょう!」
兄の腕をふりほどいたかと思えば、振り向き様に
「でなければ、昔の記録でも調べてごらんになるといい。」
そういい残すと、部屋からいなくなった。
乱暴に叩きつけられた扉の音と共に。