足が治りきってないため、レナックがファーゼの私室に持ってきた報告書の中にモンサール修道院の文字を見つける。
「モンサールの出身か!」
「はい。ですから腕は確かだと思います。モンサールまで確認しに行きましょうか。」
「いや。そこまでしなくていい。ありがとう。」
一人になった後で、考え込みながら、報告書を読み返す。
リュオンが診療所に来た経緯が書いてある内容に驚かされる。
−ナティヴ院長直々の推薦。元は修道士。
(リュオンが修道士…。)
敬虔だった印象は薄い。
モンサール修道院といえば学術機関として有名だ。
学問を身につける場として来た者に、修道士になることを強制しないはず。
机の前で考え込むファーゼの背後から、
「どうかしたのか。」
突然、声が聞こえた。
どきりとして振返ると、カルナスが立っている。
「ノックしても返事がなかったから。」
「兄上。ちょうど良かった。」
この際、カルナスに打ち明けることにした。
他に相談相手もいないのだ。
ソファーに席を移して、話し始める。
「この間、かかった町医者…。」
「ああ。名医だという?どんな具合だ。」
カルナスは実際手当てを受けた様子と思っている。
「リュオンだった。」
「何!?」
カルナスは前に乗り出した。
「どうして連れ帰ってこなかった!」
「一人しかいなかったんだ!」
「え?」
「マリアーナとエセルがいない。リュオンと一緒じゃないんだ。」
レナックの報告書をカルナスにも見せる。
モンサール修道院からはリュオン一人が来たことになっている。
あるいはエセルはモンサールにいるかもしれない。
だがマリアーナは?
女子修道院は併設していない。
どこか違う場所にいるのは確かだ。
「いったい、何で…。モンサールじゃ手が出せない。」
カルナスが愕然とする。
都を探しても見つからないはずだ。
問い質したところで、王子とは知らなくても、リュオンの意思で留まったのなら、修道院側に落ち度は無い。
逆に王族が学んだとしても不思議ではない場所だ。
「兄上は家出の原因に心当たりある?」
「わからないから心配してるんだろう。大体、面倒見が良くて、人を困らせる奴じゃなかった。」
父が病で、二人が公務にかかりきりになっている間に、「何か」が起きたのだ。
日頃からリュオンは年下の弟妹と共に過ごすことが多かったとはいえ、原因が思い当たらないのは、カルナスとファーゼが、兄として相談にさえ乗ってやれなかったことを意味する。
きっと悩んだ末の行動だっただろうに。
「やっぱり本人に聞くしかないか。治ったら、もう一度行ってくる。用もあるし。」
リュオンからの請求書を、カルナスの前に差し出した。
一瞬見せた冷たい視線が気にはなるが、リュオンはファーゼを「兄上」と呼んだ。
まだ兄弟と思ってくれているのなら、きっと会ってくれるだろう。
カルナスとファーゼは不安を抱えながら、今はただ無事でいたことに安堵するのだった。
第五話 TOP