出かけた時と同じくこっそり王宮へ戻ったファーゼは、そのままカルナスの部屋へと向かった。
待ち構えていたように、
「どうだった。」
と聞かれても首を横に振るしか出来ない。
「取り付く島なし。口を利いてくれただけましかな。おまけに父上には会いたくないとまで言われた。」
「呼び出すのは無理そうか。」
騎士隊を差し向けるわけにもいかない。
大体、説明しようがないのだ。
困ったことだが、しばらく様子を見ようと決めた。
医者としてなら来てくれるかもしれない。
唯一の希望だが、早くに機会が来る。
数日後、メイティムが急に苦しみだした。
医師団が駆けつけて、何とかおさまったものの、様子が尋常ではなかった。
油断が出来ないとだけで、医師達は他は何も言わない。
王妃のデラリットが心配そうに看病に付きっ切りだ。
メイティムの生気を失ったような顔色を見ては、カルナスもファーゼも側を離れるのをためらう。
「母上。一人、医師を知っています。町医者ですが、よろしいですか。」
「ええ。」
ファーゼの問いかけにデラリットは即座に答える。
今は考えている余地がない。
「行ってきます。」
王宮を飛び出し、リュオンの診療所へ向かう。
ちょうど患者を見送った直後に、血相を変えてファーゼが入ってきた。
「急患なら診てくれるのだろう。」
「医師団がいらっしゃるでしょう。」
「あてにならないから来たんだ。それとも医者なのに患者を身分で選ぶのか。」
この言葉にリュオンの心も動く。
相手が誰であれ、病人なのだから。
「私が診ても症状が治る保障はできませんよ。」
「構わない。」
リュオンは机の横に置いてある往診鞄を手に取って、診療所を後にした。
ファーゼが町医者を連れてきたと、王宮の奥は人知れず騒ぎが起こった。
宮廷医師達の立場がない。
その内の一人は、若い医師に見覚えがあるような気がして立ち止まった。
すぐに国王の部屋に入ってしまい、扉が閉められる。
「失礼します。」
メイティムはその声に、ゆっくりと顔を動かす。
目の前にいる白衣を着た医師に息を呑む。
「リュオン…。」
「往診に来ました。」
「お前、医者に…?」
「診察が済むまで、静かになさってください。」
リュオンも平静を保つのに必死だ。
余計な事を考えていては判断が鈍ってしまう。
リュオンの表情に翳りが出たことにメイティムは気付いただろうか。
隣室にはファーゼだけでなく、カルナスも控えていた。
「中へどうぞ。お話したいことがあります。」
メイティムと二人の兄を前にして、手術の必要があると述べた。
成功率は高いとは言えないので、他の医師が尻込みしているのだろうと予測が付く。
「任せる。」
メイティムが短く答える。
「半分以下の確率でも?」
「他に手立てがないのなら、仕方あるまい。」
病状が思ったより進行していた事を認めざるを得なかった。