メイティムが了承するのであれば、カルナスとファーゼもリュオンの腕を信じる以外にない。
「では一つだけ条件があります。万一の場合でも罪には問わぬと公文書を頂きたいのです。他の方々に怖がられては協力がお願いできません。」
 多分、医師達が手術の必要を迫られているにも関わらず口に出来なかった理由は難しさと同様、もし失敗したらという自分の身の心配もあるのだ。
「どうしてもというなら私が責任を負います。首を刎ねるなり、お好きなように。」
 出来るわけがないという甘えではなく、医者としての覚悟だ。
 誰かが命を懸けねば納得しない人間もいるだろう。
 今すぐ出来るわけでもない。
 このままでは麻酔をかけるにも体力に問題がある。
 宮廷医師達も呼び集められ、仔細が説明された。
「わかりました。」
 古参のルーデンが承服する。
 国王の面前なので、他の医師もあからさまに反論できない。
「あんな得体の知れない者に…。」
 という非難を部屋を出た後で耳にしたルーデンは厳しく嗜めた。
「無礼な。あの御方は第三王子リュオン殿下だ。」
「先に亡くなられたご側室の…?」
「違う。リュオン殿下は王妃様がお生みになられた王子であられる。」
 貴族の中でも誤解する者は多い。
 リュオンは下の弟妹と仲が良く、ローネに育てられたようなものだ。
 退出する後姿を唖然と見送る医師達であった。

 また往診に来ると約束をして足早に立去るリュオンをレナックが追いかけてきた。
「お送りします。」
 一人でも帰れるのだが、王宮から動けなくなったファーゼの配慮だろう。
「王子殿下とは存じませず、ご無礼仕りました。」
 おそらく漏れ聞いたに違いないが、今頃は医師達も口止めされてるはずだ。
「別に気にしてない。私の顔は知らない人間の方が多い。」
 地方にいたという話も疑われているに違いないが、まるっきりの作り話でもない。
 家出して医者になったと知れば、物好きだと思われるだろう。
 
 メイティムはカルナスとファーゼから偶然リュオンを探し当てた経緯を聞いていた。
「モンサール修道院にまで行ったとは…。戻りたくなかっただろうに、良く素直に来てくれたものだ。」
 一度は会いたくないと言われたことは、さすがに伏せた。
 メイティムは何が起きても良いようにと手術に関する同意書には、自分とカルナス、そしてデラリットの署名を考えている。
「母上はまだご存知ありません。後で話しておきます。」
「いや。私から直接言おう。」
 カルナスの申し出をメイティムは断った。
 取り乱すに違いないデラリットをなだめることは、容易ではないから。
 すぐ近くにリュオンがいることで、メイティムも安心した。
(きっとマリアーナとエセルも元気だ。)
 多分、聞き出すには時間がかかる。
 それでもいい。
 消息の手がかりが、ようやく掴めたのだ。
 メイティムにとって息子に会えた喜びは、手術の不安を大きく上回るのだった。
   

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