第七話

 メイティムの病巣はリュオン達が思ったよりも広がっており、困難を極めそうだった。
 最大の問題はどこまでメイティムの身体が耐えられるか。
 時間との駆け引きでもあった。
 一刻一刻すぎるごとに額に汗を浮べる医師達。
 慎重に脈を取りながら、進行していく。
 弱まっていく脈拍を感じた一人の医師が、
「先生、これ以上は…!」
 悲鳴に近い声を上げる。
 ほとんど諦めた表情だ。
 はっとして、他の医師も一瞬手を止める。
 だが、リュオンは聞こえてないかのようだ。
 メスを握る手を動かしつつ、言った。
「怖いのなら結構。ここで終わりには出来ない。最後までやり遂げねば意味がなくなる。」
 もし、この場で中止にしたら、助からない。
 たとえどんな結果になっても、そばを離れず、手を尽くしたい。
 リュオンの一人の医者としての信条だ。 
 無言の迫力に、医師達が気圧されてしまう。
「続けましょう。」
 ルーデンが静かに同意する。
 立ち会った以上、見届けなければならない。
 彼らとて医者だ。
 誰一人、場を離れる者はいなかった。
「持ち直しました。」
 今度は嬉しげな声が響く中、尚、続行されるのだった。

 西日が傾き始めた頃、扉が開く。
 待ちきれず廊下に出ていたカルナスとファーゼが出てきた医師団に駆け寄った。
「父上は!?」
 ルーデンが重々しく告げた。
「出来うる限りの努力はいたしました。後は陛下のご気力次第です。」
 まだ麻酔が効いて眠っているメイティムの意識が戻るかどうかにかかっている。
 今夜は医師達が交替で付くからと、デラリットは青ざめて横たわっているメイティムの顔を心配そうに見つめがら、部屋を退室するしかなかった。
(あなた、しっかりなさってください。でなければ、今度こそリュオンは私達の前から消えてしまいます。)
 手術の同意に正式に署名した以上、表だって責任は問われなくても、非難する者はいるだろう。
 リュオンは弁解しないかわりに、再び黙って姿をくらますに違いない。
 一晩中、誰もが祈るような気持ちの中、リュオンはメイティムの傍らにあった。
 手術を進言した執刀医として目を離したくないという理由で。
(やはり親子であられる、か。)
 ルーデンは無理に止めようとしなかった。
 二人の間の溝が少しでも埋まればいい。
 他の医師達の手前という点を差し引いても、リュオンのメイティムへの接し方は些か距離を感じる。
 おそらく別の患者には、もっと優しいはずだ。
 診療所の医師といえば町ではかなり慕われている。
 弱い立場の者を見過ごすことが出来ないのは子供の頃からの性分で、修道院の生活が輪をかけたに違いない。