第八話
日が経つにつれ、メイティムは快方に向かいつつあった。
次第に元気になっていく様子を見て、心配そうにしていた周囲の人々の表情も明るくなってくる。
順調に快復が進み、抜糸も済むとリュオンは退出の意を伝えてきた。
「このまま医師としてでも残る気はないか。」
メイティムの問いに、リュオンは首を振る。
「他の患者も抱えてますから。」
一人ではなく、より多くの人と接したい。
還俗してディザに来たのはそのためだ。
予想通りとはいえ、やはりメイティムは寂しく思う。
「ファーゼから聞いた。財力のある人間は診療報酬が必要なのだろう。」
「完全にベッドから起き上がれる頃に請求させていただきます。」
「では考えておきなさい。」
ルーデンを始め、他の医師も褒めそやしていた。
「さすがに大した腕です。モンサールの名は伊達ではありません。」
メイティムでなくとも主治医にと望むだろう。
手術結果と術後の記録を残し、今後の往診の約束と医師団に挨拶をして、リュオンは王宮を去る。
「もう帰ったのですか。」
いつの間にかリュオンの姿が見えないので、カルナスがメイティムに確かめた。
「時々、様子を見に来てくれるそうだ。」
顔は会わせ辛くても、黙って行くのも気がひけたのか、使っていた部屋の机に紙片が一枚。
『お世話になりました。また来ます。』
−まるで書置きだ−
見つけたカルナスとファーゼは同じ感想を持ち、苦笑するのだった。
久しぶりに診療所に戻ったリュオンは窓と扉を開け放す。
とりあえず診察室の掃除はしておかないといけない。
療養所へはその後でと、棚や机の埃を払い、床を掃き、診察台のシーツを取り替えていたところへ、顔見知りの少年が入ってくる。
「先生、いつ帰ってきたの。」
「たった今。長く留守して済まなかったね。」
「皆、喜ぶよ。」
笑顔を向けて、少年は首を振った。
瞬く間に診療所が開いていると話が広まり、入れ替わり立ち代わり近所の人間や患者がやってきた。
結局、療養所に出向いたのは、往診を頼まれた帰りで、もう夕方近くである。
リュオンを見ると、顔見知りの医師が、
「ちょうど良かった。お手伝いできる方を紹介しようと思っていたところです。」
「手伝いと言われましても…。」
一人では忙しいいが、診療所は何せ狭い。
もちろん承知の上でのことで、寝起きは療養所でと言ってくれた。
「医者ではないのですが、薬の扱いができるので、助手になってくれますよ。今日は場所だけでも案内してください。」
呼ばれたのはやや小柄な、若いというより、まだ少年。
黒い修道服姿。
リュオンへ預けようとするのは、彼がディザへ来る前、修道士だったことを踏まえてのことなのだ。
「よろしくお願いします。」
少年は律儀に頭を下げた。