第九話
リュオンがメイティムの往診に訪れたのは、王宮を退出してから十日後であった。
助手と称して、二人の人間を連れている。
宮廷医師達の話を聞いても、経過は順調で、診察しても特に悪化した様子はない。
「今日は特別の処方箋があります。」
リュオンが立ち上がって、扉を開ける。
処方箋というから新しい薬かと思えば、室内に入ってきたのは。
思わずベッドから、身を乗り出す。
修道服を身につけているが、まぎれもない自分の子供達。
「マリアーナ、エセル!」
「お父様。」
「父上。」
今にも起き上がりそうなメイティムに二人は駆け寄った。
手を伸ばして、我が子を五年ぶりに抱きしめ、間近で顔を見る。
「こんなに大きくなって…。」
母ローネに似た面差し。
リュオンは、そっと部屋を出て行った。
宮廷医師達が別室に控えていたので、カルナスは、
「来てるのか、リュオン。」
と訊ねた。
いつ頃という程度で、はっきりした日を聞いていないのだ。
「おいでになっております。珍しくお一人でなく、助手の方が一緒です。まだ子供のようですが。」
「子供?」
もしやと思い、
「いくつくらいの?男か、それとも女?」
「両方です。十五、六か、もっと下かもしれません。」
マリアーナは十六、エセルは十四になる。
慌ててカルナスはメイティムの部屋へと向かう。
寝室の手前の居間に、リュオンが所在なさげに立っている。
「リュオン!今日連れてきたというのは…!」
「中にいますよ。」
その言葉を聞いて、急いで扉を開ける。
目の中に飛び込んだのは、再会を喜んでいる父。
「マリアーナとエセル…?」
「お兄様?」
振返った少女は確かにマリアーナ。
「二人とも無事だったか。良かった。」
幼かった妹と弟。
あどけなさの中に、以前の面影を探す。
両腕で抱きしめてから、手を離す。
まだデラリットは知らないはずだ。
もう一度、勢い良く部屋を後にする。
「帰るなよ!」
白衣を着た弟に強く言い残して。
こんな日に限って、王宮にこもりがちではと、ファーゼとシャルロットは外出している。
「母上!」
廊下を走って、いささか乱暴な音をたて、室内に入り込んできたカルナスに、デラリットは何事かと驚く。
「リュオンが…。」
「往診に来たのですね。」
呼びにきてくれたのかと、デラリットは手にしていた刺繍をテーブルの上のかごに戻した。
「連れてきてます。マリアーナとエセルも。」
「何ですって!?」
さっと表情を変え、小走りでカルナスの前を通り抜けた。