白き道のり 番外編
遠き日々の中に
written by 文月夏夜
庭園の中に、あどけない子供達の笑い声がこだまする。
「父上!」
男の子の一人が無邪気な声を上げて、駆け寄って来た。
真っ直ぐに向けられた鮮やかな緑の瞳。
目の前の光景が一瞬にして、見慣れた装飾のある天井に変わった。
「夢…、か。」
残念そうにメイティムは、ベッドの中でため息をついた。
「どうかなさいまして?」
傍らに付き添っていた王妃デラリットが心配した表情を浮かべ、声をかける。
「いや、昔の夢を見ていただけだ。まだ子供達が小さい頃の。リュオンが声をたてて笑っていて、『父上』と呼んでくれた。」
メイティムは寂しげな笑みを見せる。
「そうですか。リュオンが…。」
デラリットはどこか懐かしむような目を見せたのも、束の間、憂いに満ちた顔に変わってしまった。
利発で快活だった第三王子のリュオンが、いつの間にか笑顔と共に口数が少なくなり、姿さえ消えてしまうとは、誰が想像できただろうか。
成長した暁には、優しく正義感のある騎士になるだろうと
思いを馳せていたのに、移りゆく時の流れの中に、いつしか、幻になってしまった。
今や自分の信じる道を見つけ、リュオンの曇りのない瞳は変わらない。
だが子供の頃のままに、メイティムと接することはできくなっている。
一度持ってしまったわだかまりを振り払えるほど、リュオンも
大人になりきれてはいないのだろう。
恵まれた環境で暮らしてきたことは、わかっている。
どう過ごしていたかと問われれば、多分、幸せだったと答えてしまうだろう。
ただ王宮という枠の中で、リュオンは自分の無力さに気付いてしまった。
王族という特殊な立場でありながら、何ができるわけでもないということに。
すべてを拒絶しきれないかわりに、いまだ受け入れ難くもあるのだ。
だから自然と素振りにも表れてしまう。
もつれ絡み合った時間は、やはり時間しか解きほぐせないのかもしれない。
再びメイティムは目を閉じた。
瞼の奥の残像を、今では、久しく耳にしなくなった「父上」と呼ぶ息子の声を、再び探すかのように…。
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本編情報 |
作品名 |
白き道のり |
作者名 |
文月夏夜 |
掲載サイト |
夢幻悠久
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注意事項 |
年齢注意事項なし / 性別注意事項なし / 表現注意事項なし / 連載状況/連載中 |
紹介 |
レポーテの第三王子として生まれながら、ある日忽然と姿をくらました。今までの自分とは、まるで異なる道を選び、歩き始めようとしている。 |