クックはもうりっぱな大人だ

 

 ペガサスの羽がきのう八枚ぬけて、今日は二枚ぬけた。羽の長さは三十五センチもある。

「お父さん、オスの羽、どうしてぬけるの。」

「ガチョウはもともとはハイイロガン。渡り鳥なんだよ。遠い国で卵を生んで、ひなにして、ひながとべるようになったらいっしょに渡るんだよ。親鳥のつばさの羽は一年ですりきれてしまうので、子育てのあいだに新しい羽に生えかえ、とぶんだよ。」

 クックは元気になってきた。クックは食べて、遊んで、ねる。何回もこれをくり返している。元気まんまんだけど、くる病はすっかりなおっていない。

 今日はペガサスや兄弟のひなとクックをいっしょにしてみた。ガチョウ小屋に入れたら、ひなはクックに近づいてきたのに、クックは

「ピイッピイッ、たすけてえ。」

とぼくの足元に逃げてくる。ペガサスが近づくと、もっとすごい鳴き声をたてて、逃げてくる。ふっとんで逃げてくる。まだ、これでは小屋に入れられないなあ。

(写真:ストローのような生えかけの羽)

 

 クックは水あびが大すきだ。鳥は手がないから、頭を水につけ、頭のうしろに水をためて、頭をプルプルン、プルプルンとふって、せなかに水をかける。ちゃんといいちえをつけているんだ。親鳥のペガサスの羽がぬけてまた、灰色の羽が出てきた。

 また、この間のようにクックをガチョウ小屋につれていった。ペガサスのそばにおいた。

「シーーーッ」

なんとペガサスがけいかい心を強くして、長いいかくの声を出した。クックの体かくのよさが気になったみたいだ。

 クックのくる病は少しずつなおってきた。早く走れるようになってきた。クックは草を食べている時、羽にさわられても、こつんと頭をたたかれても、何をしてもほとんど感じない。ぜんぜんけいかい心がない。一体、これでいいのだろうか。

 七月になった。

 生まれて二か月すぎた。体重は二千九百グラムをすぎた。くる病はだいぶよくなった。

「ガガガガガ・・・・・・」

鳴き声がペガサスみたいな大人の声になってきた。つばさものびて、バタバタバタッとはばたくようになった。首の羽が大人の羽になってきた。首の羽はくしでとかしたようにきれいにならんでいる。羽がきそく正しく重なって、すべるようになめらかだ。

 クックは見なれない人がくると、

「ガガゴゴ、ガガゴゴ」

とうなるような声で鳴く。”あやしいぞ、あやしいぞ”と言っているようだ。

 見なれた人がくると、

「ガーガーガガー」

と鳴く。”こんにちは”と言っているようだ。ちゃんと使いわけをしている。へやの中にいても、だれがきたのかけんとうがつくというもんだ。

(写真:すっかり大きくたくましくなったクック)

 

  七月中旬

クックはペガサスと同じ大きさになった。ぼくが思いっきり走ると、クックはとびそうになる。ひ行機が助走してからとぶようなかっこうをする。ガチョウはほんとうはとべないのだけ、クックはひょっとしたらハイイロガンの習性がもどって、とべるんじゃないかと思わせるかっこうをする。

 

 夏休みに入った。

朝、うら門をあける。クックはさっさと畑へ行く。畑へ行くと、新せんな草をむしゃむしゃ食べる。草をいっぱい食べて、いっぱいうんちをする。クックのうんちは草のにおいがする。

 夕方になると、クックは自分でうちにもどって来て、玄関のわきの自分の小屋でねる。

 ところが、たまにうちにもどれなくて、まいごになる。みんなで畑や土手をさがす。すぐに見つからないで困っていると、

「呉地さん、ここにおたくの鳥がいますよ。」

と電話がくる。これで安心。

 八月十四日

クックがとんだ。

 うらの畑をクックは歩いていた。そのうちだんだんと走るきょりが長くなって、

 バタバタバタ・・・・・ サーーーーーーーーッ。

と十メートルぐらいとんだ。

 びっくりした。

 

 クックにはハイイロガンの力が強く残っているみたいだ。

 今日の体重は四千百四十グラム。

 ぼくは、もう、ペガサスとクックをまちがえてしまうくらいだ。クックはもうりっぱな大人だ。ガチョウ小屋のペガサスや兄弟ガチョウにもなれてきた。

 もうぼくのお母さん役もいらなくなった。

おわり

 

(写真上:体長などの計測をするお父さんの正行さん)

(写真下:翔一君とクック) 

まえのページクックのページ