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失敗しない豆腐づくり

                            

 食べ物を作る実験は楽しいものです。生徒が失敗することなく、しかも1時間の授業時間内で作業が終わるように豆腐づくりを工夫しました。特に考えたところは、熱い呉汁をさらしでこす方法、そして凝固剤である硫酸カルシウムの混ぜ方です。

【準備】
『器具』 300mlおよび100ml専用ビーカー、ミキサー、片手鍋、お玉、さらしの袋(幅20cm、長さ60cm)、ガスコンロ、丸棒(直径2cm、長さ30cm)、割り箸、ボール、はかり、スポンジ、専用温度計
『材料』 大豆、硫酸カルシウム

【作り方】
(1) 一昼夜、水につけておいた大豆(1クラスで1.5kg)を、300mlビーカーの口まで取り、ミキサーに入れる。ここに、水300mlを入れ、1分間ミキサーにかける。できたものを呉汁(ごじる)という。

(2) 呉汁をナベにあける。

(3) ミキサーに水300mlを加え、ゆすいでナベに入れる。

(4) 絶えずナベの底をかき混ぜて、こがさないように注意しながら、呉汁を煮立てる(ふきこぼれないように注意)。その後、弱火にして80℃以上の温度で数分間煮る。

(5) 煮た呉汁をお玉でさらしの袋に入れる。熱いので、やけどに注意。

(6) 丸棒にさらしの袋を巻き付け、棒を回して呉汁をこす。こし汁を豆乳という。袋に残ったものが、おからである。

(7) 豆乳をナベにあけ、再び火にかけて75〜80℃に加熱し、火を止める。

(8) 硫酸カルシウム5gに水75mlを加えてよく混ぜる。硫酸カルシウムは水に溶けないので、白く濁った状態になる。

(9) 硫酸カルシウム溶液を箸で良くかき混ぜながら、なべ全体に円を描くように加える。

(10) その後すぐ、おたまで豆乳を5〜6回強くかき混ぜて、豆乳と硫酸カルシウムを良く混合する。

(11) そして、そっと放置しておく(固まるまで絶対かき回してはいけない)。やがて、豆乳中のタンパク質が変性し、全体が固まってくるであろう。これが豆腐である。

【注意】
 失敗しやすいところは操作(4)と(9)、(10)です。

操作(4)の注意
 こがさないように、ナベの底をよくかき混ぜて煮ること。こがすと、こげ臭い豆腐になります。それから、ふきこぼさないように気をつけて下さい。ナベの中を注意して見ていて、泡が多くなってきたら火を弱くします。

操作(9)の注意
 凝固剤を入れるところが、職人の腕の見せ所だそうです。ビーカーの中に硫酸カルシウムが残らないように、割り箸でよくかき回してから、手速く入れて下さい。硫酸カルシウムが残っていると、豆乳が固まらなくなります。

操作(10)の注意
 硫酸カルシウムをすみやかにナベ全体に混ぜるため、なるべく速く、お玉で5〜6回混ぜて下さい。その後はかき混ぜ厳禁です。いつまでもかき混ぜていると、ボロボロのおからのような豆腐になってしまいます。

【参考】
(1) 街の豆腐屋さんでは、こうして豆乳を固めた後、型に入れて少し水を切りながら整形し、適当な大きさにカット、そして、それを水にさらして販売しています。

(2) 豆腐屋さんは凝固剤としてニガリを使いますが、この作り方では最後に豆腐を水にさらす工程を省いているため、苦みの少ない硫酸カルシウムを使っています。

(3) 豆乳がイオンを加えることによって凝集するのは、単純な塩析ではないようです。
 大豆タンパク質は2S、7S、11S、15S(数字の大きい方が分子量大)の各グロブリンに分類され、11Sが40%、7Sが30%を占めています。ゲル形成には、大豆タンパク質の加熱変成が重要で、生の大豆タンパクはゲル化しません。加熱すると7Sタンパク質がすみやかに変性され、11Sタンパク質も100℃で完全に変性します。11Sタンパク質が完全変性すると強いゲル形成能を現し、疎水領域が増加します。ここへニガリなどの凝固剤を加えますと、変性したサブユニット(ポリペプチドの鎖が球状に固まったもの)がイオン結合、疎水結合(疎水性部分を持った物質が集合)などにより会合し、ゲル化するものと考えられています。また、ゲル形成には−SH基も重要な要素で、加熱中に−SH基どうしが−S−S−結合を作り、3次元網目構造を作ると考えられています。豆腐は塩析というよりはタンパク質の変成が主原因のようです。

【参考文献】
 村田容常(お茶の水女子大)「豆腐作りの化学」化学と教育,43,100(1995)