「ほら、」
「行こうぜ」
ぽん、と背中をたたかれて、ようやく上半身を起こすことが出来た。降りたカーテンの向こうからは拍手と歓声が止まず、呼応するように、自分の全身も心地よい高揚に包まれている。
何か声を、と思うのに、並んだ肩にかける言葉が見つからない。らしくなさに途方にくれる。
ふと視線を感じて顔を横向けると、彼がまっすぐこちらを見ていた。表情は柔らかい。
「そんなに見つめないでください」
その様子に戸惑い、いつもの調子を取り戻そうと、わざと彼が眉を寄せそうな言い方をする。
「お前、あんな顔で笑うのな」
思わず見つめ返してしまった。彼がまるで、自分のことのように嬉しそうに言ったのだ。それも、今のステージでの僕の姿を指して。
「……どんな顔をしてました?」
問うと、彼はいっそう目を細くする。
「このメンツの一員だって、それが誇らしいって顔に見えた」
そう言われて、何かが自分の中にすとんと落ちた。ああそうか、と思った。さっきから昂ぶりの裏側で感じていた、もの寂しさの正体。自分は、この興奮と高揚を手放したくなかったのだ。
「だから、そんな顔すんな」
ほら、と彼が左手を顔の高さに持ち上げた。向けられた手のひらに促されて、ばちり、と打ち合う。
名残惜しさが、この先に向かう期待へと変化したのを、確かに感じた。
(2007/07/29)
激奏DVDのジャケット絵のたまらん古キョン。