「見なけりゃよかった」
「…っは、」
頭上から時折り、上擦った、息混じりの声が落ちてくる。
遠慮しようとする古泉を押し切ってベッドの端に座らせ、その脚の間に陣取った……のが数分前。見よう見まねというか、自分がされることを出来るだけ反芻しながらやってみてはいるが、思った以上に勝手が分からない上に、何とも恥ずかしい。いいようにされてばかりなのが、何やら唐突に気恥ずかしくなり、なのにそれで取った行動でさらに恥ずかしくなったりするなんてのは、まったく自分の迂闊さに赤面を通り越して青くなるというものだ。
漏れてくる声で、古泉がそれなりに気持ちよくなっているらしいことは分かるものの、これでは、一矢報いるなどという以前の問題だ。
こうなったら、顔を見てやろうか。さしものハンサム野郎も、こんな時ばかりはきっと、間の抜けた顔をしているに違いない。自慢じゃないが俺の体はお世辞にも柔軟性に富むとは言えず、よって、古泉とする時は、背中を向けているのがほとんどなわけで、だからこれはチャンスなのだ。古泉の緩んだ顔の一つでも見てやれば、俺のこの行為も多少は報われる気がする。
ごくり、と喉が上下した。その振動が伝わったのか、古泉がまた短く声を上げた。置かれた指が肩に食い込む。
――なんて、顔、すんだ。
少し寄せられた眉に薄っすら開いた唇。赤みの差した目元と頬に散る柔らかい髪。そして緩く閉じられていた薄い瞼がゆっくりと――
くそっ、古泉お前、反則だろうそれは!
(2007/09/06)
迂闊の上塗り。