「理由と衝動」
両目の奥がちかちかすると思った瞬間、足元がぐらりとして、重心を見失った。倒れ込まずに済んだ俺を支えるのは、固く掴まれた制服の右腕と、その腕で掴み返す古泉の肩先だけだ。
ハルヒが残りの二人を引き連れて部室に戻ってきた頃には、古泉と二人で興じるボードゲームも五種類目を数え、だいぶ短くなった日は、すでに西の方角に見えなくなっていた。
すっかり遅くなっちゃったわ、と軽快に帰り支度を済ませたハルヒに急かされて、俺、古泉と後に続いた。ドアを押さえる俺の目の前で、突然ハルヒが何かを小さく叫び、急停止した。衝突を避けようと足を止め、今度は一体なんなんだ、と言おうとした俺の声と、ハルヒに合わせて立ち止まった俺にぶつかりそうになった古泉の、すみません、が重なった。反射的に体を半分ひねって振り向くと、耳元に聞こえた声よりも近くに古泉の顔があった。ふわりといい匂いがして、廊下の薄闇にも白くなめらかな頬と、瞬いた睫毛の曲線が縁取る澄んだ目が眩しくて、俺はわけもなく胸が詰まった。何かを言おうと動いた古泉の薄い唇を、それより一瞬早く伸び上がって、ふさいでいた。
後ろを振り返らずにハルヒが二人の手を引いて駆け出すのと、俺が古泉の肩をドアの内側に押し込んだのとが同時だった。
行動には必ず理由が必要だと思っていた。衝動がその理由になり得るのだと、初めて知った。
(2007/10/21)
ガチキョンを意識してみました。