【ラスト・ツアーでのラスト・ナンバー】
ビートルズの最後のツアーとなったアメリカ巡業ではラスト・ナンバーとして何が演奏されたのだろうか? かのマーク・ルイソンの『ザ・ビ−トルズ/全記録』には「ときどき‘Long
Tall Sally’が演奏された」と書かれているが、それではどの公演でその曲が演奏され、どの公演で「I'm
Down」を演奏したのだろうか?
結論を先に言うと、このツアーでは「I'm Down」は演奏されていないはずである。この点について筆者は4-5年前に一度検証をし海外のフォーラムに投稿したことがあるが、今回、その後に入手した情報も合わせて再検証してみた。
1. セット・リスト
「I'm Down」演奏説を疑う根拠として、まずは2つの手書きセット・リストが挙げられる。
a) ジョンがタバコの箱の裏側に書いたもの
→ バリー・タシアン編・著『Ticket To Ride』に写真が掲載
b)
ポールがヘフナー・ベースに貼り付けていたもの
→ '89-'90年のゲット・バック・ツアーの際にも貼られたままの状態にされており、
また'69年1月7日のトゥイッケナム・フィルム・スタジオでのリハーサル・セッション
の際にもそれを読み上げる場面がある
上記いずれにおいても、最後の曲としては「Long
Tall Sally」しか記載されていない。ビートルズは基本的には、公演によって演目を変えるタイプのバンドではなかったので(少なくともメジャーになった後は)、これらのリストに載っていない曲を演奏した可能性は低い。
2. 公演ごとの記録
次に、各公演毎に何がラスト・ナンバーとして演奏されたのか、資料名を付して挙げてみる。
日付 |
開演時間*注 | 場所 | ラスト・ナンバー | 資料 | |
1 | 8月12日 |
15:00 | シカゴ | Long Tall Sally | 文献:星加ルミ子『太陽を追いかけて』 |
2 | 〃 | 19:30 | 〃 | Long Tall Sally ? | 文献:バリー・タシアン『Ticket To Ride』( 『Chicago Sun Times』からの転載記事、ただし午後と夜どちらの公演についてかは不明) |
3 | 8月13日 | 16:00 | デトロイト | − |
なし |
4 | 〃 | 20:00 | 〃 | − | なし |
5 | 8月14日 |
20:00 | クリーブランド | Long Tall Sally | 文献:バリー・タシアン『Ticket To Ride』(ジュディス・シムズの記事「On Tour with The Beatles」より ) |
6 |
8月15日 |
20:00 | ワシントン | − |
なし |
7 |
8月16日 |
20:00 | フィラデルフィア | Long Tall Sally | 文献:バリー・タシアン『Ticket To Ride』 |
8 | 8月17日 | 16:00 | カナダ、トロント | − | なし |
9 | 〃 | 20:30 | 〃 | − | なし |
10 | 8月18日 | 20:30 | ボストン |
Long Tall Sally | 音源:LP『Sergeant Pepper's Lonely Hearts Club Band: The History Of The Beatle Years 1962-1970』(ラジオ放送用原盤及びそのパイレート盤。該当の部分はケニー・エバレットによるラジオレポートがソース) |
11 | 8月19日 | 16:00 | メンフィス | Long Tall Sally | 音源:CD『Live!: Make As Noise As You Like』(ソースはベス・コールマンによる実況録音) |
12 | 〃 | 20:30 | 〃 | Long Tall Sally | 流通はしていないが、ネットオークションに出品された、この日の両公演を客席で録音したテープが存在し、その曲目リストにはどちらのショーとも 「Long Tall Sally」が記載されていた。 |
13 | 8月21日 | 12:00 | シンシナティ | Long Tall Sally | 文献:バリー・タシアン『Ticket To Ride』(『The Cincinnati Post & Times-Star』からの転載記事) |
14 | 〃 | 20:00 | セント・ルイス | - | なし |
15 | 8月23日 | 19:30 | ニュー・ヨーク | Long Tall Sally | 文献:バリー・タシアン『Ticket To Ride』(『New York Times』からの転載記事)、『NME オリジナルズ: ザ・ビートルズ 1962-1970 ザ・コンプリート・ストーリー』(New Musical Express 66年8月26日号の記事の再録)、 星加ルミ子『太陽を追いかけて』 |
16 | 8月25日 | 15:00 | シアトル | − | なし |
17 | 〃 | 20:00 | 〃 | − | なし |
18 | 8月28日 | 20:00 | ロス・アンゼルス | Long Tall Sally | 直接の記録はないが、このツアーの同行取材をし、この公演も見ている星加ルミ子が 「このツアーでは日本公演とは違って最後にLong Tall Sallyが演奏された」旨を 写真集(『The Beatles In My Life』)で述べている。 |
19 | 8月29日 | 20:00 | サン・フランシスコ |
Long Tall Sally | 音源:CD『Live In
Paris 1964 And In San Francisco 1966』(Pyramid)他 文献:エリック・レフコビッツ、ジム・マーシャル『The Beatles' Last Concert』 、マーク・ルイソン『ビートルズ・ライブ大百科』及び『ザ・ビ−トルズ/全記録』 他 |
*注 ビートルズが演奏を開始した時刻ではない
全19のコンサートのうち、半分以上に当る11(もしかするとプラス1)の公演で「Long
Tall Sally」が演奏された記録があることになる。
残りのコンサートにおけるクロージング・ナンバーについては証拠となる資料を今のところ見つけられていないが、
具体的な記録があるところでは全て「Long Tall
Sally」が演奏されていることを考えると、全ての公演でそれが最後の曲だったと推測するのが自然であろう。
1.の手書きセット・リスト及び2.の記録を合わせて考えても、やはり結論は、ビートルズのラスト・ツアーでのラスト・ナンバーは「Long
Tall Sally」だった、ということになる。
トップ・ページへ戻る
©2004 野良: 無断転載・複写を禁ず