As It Happened, Baby!

 

 

レーベル: Darthdisc & RAR

カタログ番号: 0001

リリース時期: 2002年11月 

メディア: CD-R<非売品>

 

 これは近年増えている、ツリー方式で仲間内に配布された私家版ブートレグのため非売品であり、今のところ(ブートレガーにコピーされていないので)トレードで入手するしかない。
 ダースディスクは『Northwest Nights』や『City Of Light』等のコアなタイトルをリリースしているレーベルで、彼らはその作品を全てツリー方式でファンの間に流通させている。先の2つのタイトルを初め、日本ではいくつかプレスCDのコピーが出ている。RARはあまり有名なレーベルではないが、「910’s Guide」でコア・コレクションに選定されている『Video 1』を出している。
 今回、そんな両レーベルを運営しているコレクターが協力してリリースしたのがこの『As It Happened, Baby!』である。ここに収録された音源は、ダースディスクがボードルーム・テープ*を提供し、RARが「アラウンド・ザ・ビートルズ」のリハーサル音源を提供する、といったように両者が持ち寄ったもの(+アルファ)で、それらの素材が録音年月順に並べられている。

 

 *ボードルーム・テープ (Boardroom Tapes)
 '70年代後半、EMIがビートルズの未発表マテリアルをリリースすべく動き始めた際、いくつかの楽曲からなるテープが編集されEMI社内で試聴が行われていた(このテープは、ジョン・バレットのノートの’76年4月12及び23日付けに記載されているものが該当し、バレットのログはこのCDのインレイ内側のアートワークに転載されている)。 そして、重役室(ボードルーム)においてルパート・ペリー(現EMI会長)達がそのテープを聞いている場面を録音したのがこのボードルーム・テープである。オフラインでの収録であり、ところどころでペリー達の話し声も聞こえる。
 このボードルーム・テープはブートレグ『File Under』のソースにもなっていたが、そのLPのコピーではなくテープ・ソースからCD化されたのはこれが初めて。ここに収録された曲は殆どが、近年ではもっと高音質なソースから(もちろんオンラインで)ブートレグ化されているため、今ではこのテープの音源的な価値はかなり薄れている。

 

<収録トラック解説>

(1) One After 909 (2:55)  3/5/63  "Boardroom Tape"

 ボードルーム・テープより。'63年バージョンのオフライン音源。

(2) "Around The Beatles" Music Rehearsal with Murray The "K" (17:40) 4/23/64

 このタイトルの一番の目玉と言える音源。「アラウンド・ザ・ビートルズ」のリハーサルの模様をDJのマリー・ザ・Kがレポートしている。音質はややこもりぎみでヒス・ノイズも多く、あまり上等とは言えないが内容はなかなか貴重なものである。4月23日にもこの番組のリハーサルが行われたということはマーク・ルイソン氏の「全記録」にも記載がないが、このテープ中の会話からアメリカの研究家、ジョン・ウィン氏がこの日付を特定したものである。
 "Around The Beatles"は、予め録音したテープに合わせてビートルズがマイム(口パク)したものだが、ここでは番組のプロデューサーであるジャック・グッドの監督のもと、そのテープに合わせてグループがマイムのリハーサルを行っている。その合間には、彼らが息抜き的に違う曲を演奏している場面も捉えられている。例えば「Words Of Love」(ギターによるインストゥルメンタル・バージョン)や、「You Can't Do That」(ギター・リフ+α)などである。
 これらは、いくらか離れた位置で録られているため音がやや遠く、マリーがバンドのメンバーの誰かにインタビューを行っている背後に聞こえるような状態ではあるが、演奏はそれなりにしっかりとしており、ある程度の長さもあるので、新たに発見されたビートルズのアウトテイクとして扱いたい。
 他にも、短いが、ボ・ディドリーの「Bo Didley」をポール(?)がギターのコード刻みに合わせて歌うところも聴ける。また、シングル曲のメドレーの冒頭を飾る「Love Me Do」ではイントロのハーモニカが聞こえない。ハーモニカのパートはこの後に録られたということであろうか。 →訂正:よく聴くとハーモニカの音が聞こえる箇所があった。マリーの「ジョンが次の曲へ移るためにハーモニカを落した」というコメントもある。

[補足:それまでは全く観客の声が聞こえないのに、番組用の楽曲が流れると急に歓声があがることから、歓声も予めテープに収められていたことが分る。おそらくこの歓声が本番でも使われているはずだ。その方が演奏と歓声のバランスをコントロールすることができ、ビートルマニアの演出に不可欠な耳をつんざくようなヒステリックな叫びを充分なだけ聞かせることができるので製作者にとっては都合がよいからだろう。]

(3) "Around The Beatles" Shakespeare Rehearsal w/Murray (10:42) 4/23/64 - Remembrance Hall, London

 こちらは同番組でビートルが演じたシェイクスピアの「真夏の夜の夢」(A Midsummer Night's Dream)のリハーサル場面をマリーがレポートしているもの。

(4) Leave My Kitten Alone (2:48) 8/14/64 - "Boardroom Tape"

 ボードルーム・テープより。失敗スタートとエンジニアによるテイク5のコールを含んでおり、この部分はボードルーム・テープでしか聴けないもの。

(5) Kansas City/Hey Hey Hey Hey (2:46) 10/3/64 - "Shindig" unsweetened

 テレビ番組「シンディグ」用に録音されたバージョン。演奏前後の観客のざわめき部分がわずかに『In Case You Don't Know』(Spank)収録のものより長いことから、新たにテープ・ソースからとられたものであることがわかる。

(6) If You've Got Trouble (2:46) 2/18/65 - "Boardroom Tape"

 ボードルーム・テープより。演奏が始まる前にバンドのメンバー達の話し声がほんの少し聴ける。

(7) That Means A Lot (2:39) 2/20/65 - "Boardroom Tape"

 ボードルーム・テープより。冒頭にエンジニアのノーマン・スミスのアナウンス「Can't You See, this is RM1. Remix of 4-track, take 1」が入る。当初は「Can't You See」という仮題でこの曲は呼ばれていたのかもしれない。

(8) Day Tripper (2:46) 10/16/65 - monitor mix

 「910's Guide Vol.1」にもリストアップはされていたが未ブートレグ化のため"unavailiable"となっていたもの。「Guide」では、バッキング・ボーカルが小さめになっている別のモノ・ミックスとなっていたが、実際はモニター・ミックスだったようだ。
 この音源は、ジョン・レノンが所有していたカセットからのものとのことである。その同じカセットには他のブートレグで聴ける「We Can Work It Out」のデモ及びラフ・ミックス、「Michell」のデモ、「In My Life」の別ミックス(間奏がオルガンになっているバージョン)も収められているようだ。

(9) In My Life (0:44) 10/22/65 - isolated piano solo (normal and half-speed)

 この曲のピアノ・ソロの部分だけを取り出したもので、ジョージ・マーティンを取り上げたラジオ番組からの音源。マーティンは実際にはこのソロを半分のテンポで弾き、あとでテープの回転を上げることでソロのスピードを速くしているが、その実際に演奏されたテンポでのソロ(これは後年の演奏だろう)をここでは続けて聴くことができる。

(10) Eleanor Rigby (0:20) Spring 66 - home demo

 '65年のシェイ・スタジアム公演及びポールによる「Eleanor Rigby」のデモを収めたテープが2001年に海外のオークションで出品された(結果はどうなったのだろうか?)。そのオークションの宣伝サイトでは後者のデモの一部が公開され、これはそれをソースとしている。
 ポールがアコースティック・ギターを弾いて歌っている素朴なものだが、ボーカルはダブルトラックになっている。

(11) Yellow Submarine (2:38) 6/1/66 - alternate mono mix

 これも、一部コレクターの間のみで流通し、「910's Guide Vol.1」では既に紹介されていた音源で、今回が初ブートレグ化。ある海外のフォーラムではフェイクではないかという疑念が出ていた。「Guide」には、もしもこれがフェイクだとしても、既存の音源からは作ることができないという一文が見られる。"and the band begins to play "のラインのあとに挿入されるブラスによるフレーズが全く異なっていて、正規バージョンを聴き慣れた耳には確かに違和感が感じられる。私としては現時点では結論は保留しておきたい。なお、この音源はエンディングの途中で突然切れてしまう。

(12) She Said She Said (0:47) 6/66 - home demo

 これは、今年オークションに出品されて話題になった、ジョンがこの曲の作曲に取り組んでいる際の模様を収めたテープ(ヨーコの元夫であるトニー・コックスが所有していた)からの短い抜粋で、BBCのニュースで取り上げられた際に流されたものである。
 この曲のデモは、2つのグループに分けられるものがラジオ番組"The Lost Lennon Tapes"で放送され、ブートレグ化もされているが、ここでは今まで聴けなかった初登場のものが収められている。ウィン氏が推測しているように、録音時期は、既ブートレグ化の2つのグループの音源の間であると考えられる。バース冒頭の、のちには"I said"となるところを、"I"だけを引き伸ばしてジョンが歌っている。

(13) A Day In The Life (0:39) 1/19/67 - take 1 fragment

 これも「910's Guide Vol.1」には"unavailable"と記載され、一部コレクターの間のみで流通していたものでブートレグ化は初めて(その後『Tell Me What You See』にも収録された)。
 "I saw a film today, oh boy"で始まるパートのみの断片的な音源だが貴重。完全版を所有しているコレクターがいるのではないかと思うが如何?

(14) Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band (2:12) 2/2/67 - RM1 acetate

 イエロー・ドッグの新版『Acetates』で初登場したバージョンで、そこからコピーされたもの。

(15) Magical Mystery Tour (2:52) 4/27/67 - RM4 acetate

 スイート・ザップルがリリースした『Another Tracks Of Magical Mystery Tour』で初めてお目見えした初期ラフ・ミックスで、そのブートレグがソース。しかし、仲間内でレファレンスに使ったMP3音源がここでは使われているので音質は劣る。

(16) Step Inside Love (2:26) 11/67 - home demo

 ラジオで放送されたポールのデモ。ここでは曲の前後のケニー・エバレットのコメントも聴ける。テープ・ソースからCD化されたことがない音源で、今回もスクラッチ・ノイズが少し聞こえるがソースが何であるかは未確認。音質は悪いが、しかし『Vinyl To The Core』収録のもの(LP『Rare Than Rare』からのコピー)よりも向上している。
 [補足:その後、LP『Abbey Road Revisited』(Wizardo Records)収録のものとも比べてみたが、演奏の前後のエバレットのコメントがそのLPよりも少し長いので、これは既存のブートレグではない新たなソースから取られているようだ。大した差があるわけではないが比較すれば音質が一番良いので、この音源についてはこの『As It Happened, Baby』が新たなベスト・ソースとなった。] 

(17) Christmas Time Is Here Again! (6:36) 11/28/67 - "Boardroom Tape"

 この曲のボードルーム・テープからの音源は『The Ultimate Beatles Christmas Collection』(Vigotone)にも収録されていたが、ここでは演奏が始まる前のジョンの話し声から聴くことができる。ビゴトーンのCDの方が高音が出ている(あるいはきつい)が、これはイコライジングによるものかもしれない。今のところ、この曲の完全版はボードルーム・テープのオフライン・ソースしか流出していない。

(18) Dig A Pony (1:15) 1/22/69 - "Boardroom Tape" fragments

 これはボードルーム・テープのサンプラー・テープからの音源で途中でカットがあり、かつ最後まで続かない不完全なもの。『File Under』のものは完全版だが、これより音質が少し劣る。また、『Day By Day Vol.20 』(ディスクA、トラック2=ロール417A)等にも収録されているが、そちらはフィルムのサウンドトラック用にナグラ社のレコーダーで録られたもので、こちらはマルチトラックから。しかしオフライン録音。DDSI番号は22.23。

(19) Rip It Up/Shake Rattle And Roll (2:09) 1/26/69 - "Boardroom Tape"

 ボードルーム・テープから。マルチトラックから作成されたステレオ・ミックスが公式盤『Anthology 3』でリリースされており、また当時グリン・ジョンズが作成したミックスが『Celluloid Rock』で聴けるが、ここではそれらよりも「Rip It Up」の初めが少し長く収録されているのは見逃せない。オフライン録音なので音質は劣るが、長さの面ではこのボードルーム・テープが一番勝っている。
[補足:うっかり見落としていたが、もちろんこれはマルチトラック音源についての話で、フィルム用音源をソースとした『Day By Day Vol.28 』や『Thirty Days』ではこの演奏をもっと長く、完全に聴くことができる。]

(20) Kansas City/Miss Ann/Lawdy Miss Clawdy (3:43) 1/26/69 - "Boardroom Tape"

ボードルーム・テープより。

(21) Cannonball/Not Fade Away/Hey Little Girl/Bo Diddley (3:01) 1/29/69 - "Boardroom Tape"

ボードルーム・テープより。

(22) Come And Get It (2:24) 7/24/69 - "Boardroom Tape"

ボードルーム・テープより。

(23) The End (1:54) 8/18/69 - alternate mix w/piano ending

 非常にレアなLP『Abbey Road Talks』(Nebulous Records)でしか聴くことができなかった別ミックスをテープ・ソースから収録したという貴重なもの(スクラッチ・ノイズが聞こえるのは、アセテート盤が大元ということか?)。ウィン氏によると、元はWNEWというラジオ局で放送されたものらしい。
 「910's Guide」では、ドラム・ソロとエンディングのピアノに違いがあると記されている。確かに、最後のピアノ・コードは『Abbey Road』で発表された公式ミックスよりも長く音が持続している。そして、リリースされたミックスよりもオーケストラの音がオフになっている。しかし、ドラム・ソロには違いがない。これはサルピー氏の勘違いだろう。また、ギター・ソロが一回り(6小節)分短く、リリース・バージョンの二回り目のポールのソロから始まっている。

(24George's harmonica playing

 これは隠しトラックで、トラックリストには記載されていない。マリー・ザ・Kがポールに「I'm Your "Coochie" Coochie Man」(マディー・ウォーターズで有名な「I'm Your Hoochie Coochie Man」のことか)という曲を聴いたことがあるかと尋ねていると、ジョージがハーモニカを吹き始める。短い演奏。

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情報提供: J・ウィン、ネオ

 

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