■ Birthday




「兄さん、大丈夫?」
「うん。もうちょっと……」
 中庭を通りかかった時、双子が何かをごそごそやっているのに気が付いて、私は眉を顰める。
 丁度こちらに背中を向けている格好で、額を付き合わせるようにしてひそひそ話している姿は、まるで小さな子供のようで。
 先日、折角正式にコリエルとして認められたというのに、これでは他に示しがつかないのではないか、とため息が出てしまう。
 これで仕事のほうも手を抜いているのだったら文句の一つも言えるのだが、どちらも仕事は完璧にこなすので始末におえない。
 これは一言何か言ったほうが良いのではないか、と思い、私は双子のほうへ歩き出した。

「お前達、一体何をやっているんだ?」
「あ、上級、ちょうど良い所に」
「探してたんですよ」
 私の姿を認めると、二人共邪気の無い顔でにっこりと笑う。
 それは会ったばかりの時とまるで変わらない態度で。この双子に会っている時は、少しだけ自分が上級天使だという事を忘れる事が出来る。
「お前達、仕事は……」
「終わってるよ」
「貴方と違ってそうそう大量の仕事は舞い込んで来ないんですよ。何といったって信用が無いので」
 簡潔に答えた兄とは違って、弟はおっとりと棘のある事を言う。
「信用が無いと思っているのなら、もう少し日頃の態度を改めたらどうなんだ?」
 そう言うと、双子は何故か困ったように目配せをした。
 二人のほうにゆっくりと歩を進めると、相変わらず二人が座っているベンチの上にチェス盤が置いてあるのが見えた。どうやら今回は弟が優勢らしい。
「……っていうか、僕達の信用が無いのは態度の問題じゃないから…ね?」
「そうですね……とりあえず貴方を除いた上層部の爺い共は、相変わらず僕達の存在自体が邪魔ですからねぇ……」
 あはは、と双子達は何ともいえない笑いかたをする。
「だけど、僕達は大丈夫だから、ね?」
「そうですよ?だから、そんな顔をしないで下さい」

『そんな顔』とはどういう顔なんだろう?
 別に、普通の顔をしているつもりなのだけれど……

「そんな上級に、渡すものがあるんだよね」
 この話はもうお終い、と言うように、急に口調を変えて兄がにっこり笑う。
「………私に?」
 ぽん、と兄から無造作に渡されたのは、リボンがかかった小さな包み。
「今日、誕生日だって聞いたので」
 話についていけずに妙な顔をしただろう私を見て、弟が微笑んだ。
「……誰から聞いたんだ?」
「それはナイショ……開けてみて?」
 促されて小さな包みを開けてみると、中からは赤く光を弾く、鳥の形をした綺麗なガラスのペーパーウェイトが出てきた。
「これは……?」
「金糸雀」
「カナリヤ?」
「兄さんが、貴方に似ているからって……」
「……余計な事は言わなくて良いから」
 うっかり口を滑らせたという感の弟の頬をぎゅっ、と兄が摘まむ。

 金糸雀に似ているというのはどういう事なのだろう?こいつはたまに良く分からない例え方をするからな……

「それなら邪魔にならないかなと思ってさ。良かったら使って」
 一瞬考え込んでしまった私を、兄の声が引き戻す。
「ああ……ありがとう」
 反射的に答えただけだったのだが、そう言うと、双子達は嬉しそうに笑った。



「あら、綺麗なペーパーウェイトですね」
 新しく秘書に迎えた彼女は、机の隅に置かれた小さな塊を目ざとく見つけた。
 自分ではもう見慣れてしまったが、やはり、モノトーンの机の上に置いておくと目立つ存在なのだろうか?
「随分昔、貰ったものだがな」
 何の感慨も無く言ったつもりだったが、それを聞いた彼女はふんわりと柔らかい笑みを浮かべる。
「大事にしていらっしゃるんですね」
「……使えるものだから、捨てるのもどうかと思ってな」
「……では、そういう事にしておきますわ」


 昔良く聞いたくすくす笑いが、聞こえたような気がした。





END
製作時間○時間。←とても書けない。マジでやっつけ仕事になっちまいました(滝汗)。
だ〜もう……仕事が憎い!!
2003.11.28 UP
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