■ introduction




「明日は、どうなるんだろうね」
 ベッドの上に体を起こした僕を不安そうに見上げる弟に、曖昧な笑みを返す。
「そうだね」
「創造維持神って、どういう人なんだろう?」
「……きっと、優しい人だよ。神様なんだから」



 さっきいきなり僕達に通達が届いた。


 ――― 明日、創造維持神との対面を行う ―――


 思い切った事をするものだ。
 今迄その存在すら黙殺されていた僕達を神の間に招き入れるなんて。
 恐らく明日は最終試験といった所か。
 これで同調が上手くいかなかったら僕達を処分するつもりなのだろう。
 僕達が上級天使候補と親しくしているのを快く思わない連中の差し金なのか、それとも僕達の能力を研究資料に残す為の実験なのか。
 どちらにしろ裏に絡んでいるのは碌な思惑では無いだろう。
 僕は別に構わない。裏に何が潜んでいようとも切り抜ける自信はあるから。
 だけど、やっぱり生真面目な弟はそれなりに動揺しているようで可哀想になってしまう。


「もう寝よう。寝不足で創造維持神様の前には出れないよ?」
「うん……」
 珍しく歯切れの悪い返事にふと思い至って。
「うん?緊張して眠れないなら手を握っていてあげるよ」
 わざと少し人の悪い笑い方を言ってベッドに潜り込むと、夜目にも白い顔にぱっと赤みが差した。
「……そう言ってすぐ子供扱いするんだから」
 そう言ってむくれたけれど、シーツの中の弟の手を探り当てると、やっぱり少し冷たくなっていて。
 安心させるようにぎゅっと握り締めると、振り払いもせずに握り返してくる。
「大丈夫。明日も、一緒なんだから」
「うん……」
 やはり緊張していたのだろう。僕の手を握り締めてすぐ、弟は眠りについていく。



『創造維持神……ね』
 暗闇に目を眇めて考える。
 何も知らない弟には言わなかったけれど。
 あんな自我も無い、反射運動しかしないような物体と同調出来る人間が居ても何がどう変わる訳でも無い。
 お偉方が思っているような劇的な変化が起こる訳でも無い。
 確かに世界の理を司るあれを護る事は、しいては世界を護る事に繋がるのかも知れないが、あれはそれを望んでもいないだろう。
 それを声高に言ってしまうとマルクトの教義自体が揺るぎかねないが。


 そもそも自我の無いあの神には、あれを理解出来る人間や語る言葉などは不要だというのに。
 いや、あれを『神』だと思う事がそもそもの間違いなのではないだろうか?


 そこまで考えて、堂々巡りになってしまった思考を中断させる。
 いくら考えても、これだけはどうする事も出来ない事柄だから。
 残念ながら僕には結末を最後まで見届ける時間は残されてはいないだろう。


 隣で何も知らずに眠る弟に目を向ける。
 この命を繋ぐ為にも、どんな事をしても明日は失敗する訳にはいかない。


 ――― ごめん ―――


 もし、気が付いたらお前は僕を恨むだろうか。
 全てを知っていながら、口を噤むしかない僕を。


 せめて、僕の愛する人たちが幸せになるようにと。それを願う事はまだ許されるだろうか。



 それが、たとえ崩壊への始まりだとしても。





END
久々の更新がいきなり変な話で済みません。
うちのアニーは一体どこから色々な情報を仕入れてくるんでしょうか?私も謎です。
04.02.15UP
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