■ ある夏の出来事




 いつものようにリビングのクッションに埋もれていたエドワードが、夏の日差しを浴びてなんとも億劫そうに金の目を開く。
「あっつい……。」
 眠っているうちに、いつの間にか室内には日光がさんさんと降り注いできていた。
 いつの間にか、一緒に寝ていた筈の黒犬の姿は無く、エドワードは小さく舌打ちをする。
 勿論怒っても涼しくなる訳は無く、余計暑くなるだけだという事はこの間身を持って体験したので、それ以上騒ぐ事はしない。
 涼を求めて、陽が当たらない廊下へとふらふらと歩いて行く。
 念を入れるようにわざわざ一番隅を選ぶと、ぺったりと廊下に腹這いになった。

 暫くすると。

「うん……ちょっと涼し……」
 満足そうな独り言がぽつんと漏れた。
 腹の下が体温で暖まるまではここに居られるだろうと考えながら、またエドワードはうつらうつらと眠り始めた。


「何だこれは……?」
 少し側を離れていた間に、猫の姿が見えなくなったと探していたロイは、目の前でだらしなく伸び切った小さな体を呆れたように眺める。
 手足をだらりと伸ばし、ぴったり床に腹を付けて、目を閉じている姿はまるで……。
「それでは猫の開きだぞ…」
 思わずぽつりと呟いた。
 側まで来ても反応すらしないエドワードに鼻面でそっと触れる。
「…エド、エド……大丈夫か?」
「…あつい〜……」
 何度か鼻先で突つくと、エドワードはやっと薄目を開けた。
 無理矢理こじ開けた瞳には、自分より長い、しかも黒い毛並みをしている癖に何故か涼しげなロイの様子が映り、エドワードは不快そうに眉を寄せる。
「……ロイは何で平気?」
「俺も暑い」
「嘘〜。全然涼しそうじゃないか」
「さっき水を飲んで来たから、少しましになった。エドも飲むといい」
「うー…めんどくさ……」
 一声唸ってごろんと寝返りを打った体を、ロイはひょい、と咥え上げた。
「ヤダ…暑い……離せよ」
「脱水症状になったら困るだろう。まず水分補給位しなさい。…ああ……それとも手っ取り早く浴槽に落とすかい?」
 水が嫌いなのを分かっていながらそう言うと、それまで聞き分けなくぐずっていた猫が途端に静かになる。
「さっき二階の扇風機のスイッチを入れて来たから、後で上に行こう」
「……それを早く言え……」
 自分の鼻先でぐったりと脱力した猫に心の中で笑うと、猫に水を飲ませる為に、ロイはキッチンに向かうのだった。





END
拍手からのお引っ越しです。
毛皮は熱いと思うのですが、トリシャもエアコンつけて行けば良いのに…。と自分で突っ込んでしまったり(^-^;
2007.07.07UP
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