VOL.6

信州に移住してからの数年間、タクシー運ちゃんで生計を立てながら人間ウォッチング。
カルチャーショックにおびえながらも 絵を描き始めるきっかけになった時代です。



【な、な、なんですか!】

 中年サラリーマンが乗ってきた。ニヒルな顔して何もしゃべらないから、行き先を聞いて無言で車を走らせていた。
 出張などのビジネス客は、打ち合わせなどを前に策を練ったり、緊張している人もいて、気を使うんだ。
 しばらくすると、その客が話しかけてきた。
「運転手さん、チョット聞きますけど・・」
「ハイ!何でしょう?」
 振り向くと、その客の顔が五aぐらいの所にあるじゃないか! そのときだ、客は僕に思い切り息をはきかけた。
「な、な、な、なんですか!」
「ニオイませんか?」
「ハ?い、いえ気になりませんけど?」
 すると客は表情を崩さず、またはきかけた。
「ホントにニオイませんか? よかった。朝まで飲んじゃったから、気になって。 打ち合わせの場所で酒のにおいプンプンじゃ信用なくなるし・・・」
 その客は、降りぎわにまた聞いた。
「ホントォーに、ニオイませんでしたか・・」




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