VOL.22

信州に移住してからの数年間、タクシー運ちゃんで生計を立てながら人間ウォッチング。
カルチャーショックにおびえながらも 絵を描き始めるきっかけになった時代です。



【二つのクルミ】

 休みの日、会社からの電話!
「なあ、宮坂君、血液型は何だい!」
「・・・・・・・・!」
 頭に今朝のラジオニュースがよぎった。小諸市内でタクシーと乗用車が正面衝突。運転手は重体という。まさか自分の会社とは思わなかった。
「申しわけねえがO型なら輸血お願いできるかい」
 急いで飛び出した。タクシーは24時間営業だから、何事もないかのように通り過ぎる同僚たちの車が、なぜか冷たく感じるのも仕方がないのか・・・。
「わざわざ悪かったね。輸血の必要はなくなったみたいだ・・・」
 彼はその日、亡くなった・・・。
 昼夜業務の運転手たちは、運転時間が長い分、事故に遭遇する確率も高くなる。特に田舎の夜は酒の入った車も多く、まきぞえを食う率も高い。将来のボケ防止とか言って二つのクルミを握ってコリコリやってた彼が、事故の防止だけはできなかった。 享年五十三歳とのこと。御冥福をお祈りするのみである。




バックナンバー閲覧

01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50

Return to the Top Page
All Right Reserved,copyright(C)Shigeto Miyasaka/2021