VOL.28

信州に移住してからの数年間、タクシー運ちゃんで生計を立てながら人間ウォッチング。
カルチャーショックにおびえながらも 絵を描き始めるきっかけになった時代です。



【運ちゃんのため】

 乗った男性客は小諸まで飲みに行くと言う。少しばかり走ったところで
「チョト待っててくれや、友達連れて来るからよ!」
と、言い残して車を降りた。
 ところが10分たっても20分たっても戻ってこないの。行き先を見届けておけばよかったよな〜。しかたなく近所の家を一軒一軒探し歩いて最後の一軒に・・・いた。それもすでに出来上がっていた。
「オォーッ、運ちゃんまだいたんかい!?」
と、わけのわからないコトを言いながらコップ片手にしばらく首を垂れてるじゃない。 そのまま寝ちゃうのかと思ったら突然
「ヨォ〜シ! 運ちゃんのために小諸まで行こう!」
「エ! 別にここまでの運賃頂ければ」
「ダメだっ! おれにも責任が・・・ウイッ! 行くったら行くのッ。運ちゃんのために行くのッ!・・・ウイッ」
 何だかわかんないけどこのお客さん・・・”運ちゃんのため”に小諸まで乗ってくれた。




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