VOL.44

信州に移住してからの数年間、タクシー運ちゃんで生計を立てながら人間ウォッチング。
カルチャーショックにおびえながらも 絵を描き始めるきっかけになった時代です。



【ジイチャンの死】

 「・・・? 何さがしてるダ」 「石だよ! 棺おけのクギ打ち用!」 「そっかい・・・なら、うちの庭の石でも使いなあ」
 ひょんなコトで、僕のタクシーをごひいきにしてくれた一人暮らしのジイチャンが、がんで死んだ。このジイチャンも昔、東京から流れて来たようで、最近は専属(?)運転手の僕が唯一の話し相手だったんだ。
 六畳一間のさみしい部屋で、いとも簡単なお経。そして、たった数人のお焼香・・・。 棺をアパートの二階から下ろすのも、ジイチャンの義弟さんという人と、霊きゅう車の運転手と僕だけだった。
 はじめて小諸を訪れたという義弟夫婦が汗をふきながらポツリと言った。
「私ら、もう小諸に来ることもないんでしょうね・・・」
 後日、ジイチャンが住んでいた近辺の絵を描いて送ってさしあげた。
 ときどきアパートの横を通り過ぎるたび、あの部屋に目をやるが、あれからずっと空き部屋になっている。

 ・・・とても暑い夏の日だった。




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