ここでは未発表の小作品を紹介しています。
小さな小さなお話です。

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──おはなし──

2011年・後半のおはなし                     「遠い記憶」

ずっとずっと昔・・・まだ私が幼かったころの記憶・・・
頭の片隅に追いやられた記憶の断片が時々途切れ途切れに蘇るときがある。

父の転勤で、私は何度か引越しを経験している。
引越しの前日、両親が忙しくて私は一人でお留守番をしていたことがある。

そのとき、2階の自分の部屋で、一人でする番をしていたはずなのに、下の階から笑い声がした。
私は恐る恐る階段を下りた。
そこには私と同じくらいの年頃の女の子が、人形で遊んでいた。

どんな会話を交わしたのかはもう忘れてしまったけれど、その子と意気投合し遊んでいた。
私はなぜかその子の家へ行く事になり、ついて行った。

私の家からほんの少し歩いたところに、その子の家があって私はその子の家でまた、一緒に遊んだ。

時が進み、夕暮れ時になって私は自分の家へ帰った。
家に戻ると、あの子の人形が置いてあった。
「あっ、忘れ物だ・・・届けてあげなきゃ・・・」

そう思ったとき、両親が帰ってきた。
私は、今日あったことを両親に話したけれど、そんな家はないし、そんな子どももいない。と、両親は言った。

じゃ、私は一体、どこの誰と遊んでいたの? じゃあの家は?

私は人形を抱えてあの子の家へ向かった。
両親の言った言葉は本当だった。
家も何もない、ただの空き地だった。

そうして次の日、とうとう引越す日がやってきた。
私はあの子が忘れていった人形を、そのままこの家に残して出て行った。
なんだか、あの子がこの人形を取りにくるような気がして・・・・・・・・

何十年も経った今、私が住んでいたあの家もどうなったのかは分かりません。
ふと、今頃の蒸し暑い日になると、遠い記憶が懐かしく思い出されるのです。
                                                     おしまい



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