Reviewer:20th. 294-298 名無しのエリー2008.12.31.
1.LOVE LETTER ★★
ピアノ弾き語りによるシンプルなバラード。
全体的にピアノが強調された今作を象徴するような曲だが、不摂生が祟ったのか歌唱力がかなり落ちていて危なっかしい。
ELT持田を上回るペース。伴奏はピアノのみなので歌がこれでは曲として苦しい。
表現として優しく歌ってる、とフォローするのも苦しい。終盤の高音では金属的なかすれ声が耳障りな部分も。
楽曲は以前に比べ丁寧に作る意欲が出てる気がするのだが。Bメロは「金魚花火」とかなり被ってるが。
2.ロケットスニーカー ★★★
軽快なピアノが前面に押し出されたアッパーなロック。
大塚はピアニストっぽくない、シンプルなメロディの反復を多用したギターポップっぽいメロディを作りがちな傾向があるが、
この曲ではそれが良い方向に作用しており、演奏の質の高さも相俟ってスネオヘアーのような印象を与えてくる。
サビでたまに鳴る、ロケットの打ち上げをイメージしたドーンという低音も面白い。
しかし狙ってロリ元気な感じに歌おうとしたボーカルがあまりに不自然。声がババ臭くなったのを無理に隠そうとして裏目に出たか。
歌詞も意味にこだわるでも韻やリズム感にこだわるでもなく、適当な印象。
3.バイバイ ★★★
引き続きピアノ強めのアッパーチューン。
初期の星村麻衣といった感じだが、元気な曲なのに高音の声量が頼りなかったりして歌に力がない印象。
やたら詞の乗せ方のリズムが悪い部分があるのも気になる。
小気味良い転調や間奏でのクリームのホワイトルームみたいなコード進行など、大塚にしては凝った要素のある曲なだけに勿体無いような。
4.クラゲ、流れ星 ★★★
ピアノを軸にハープ等を足してしっとり仕上げたバラード。
この曲ではピアニストらしい起伏の大きいメロディを乗せており、ありふれてはいるが安定感がある。
発声も自然。自身の「金魚花火」同様、聴いてると坂本龍一の有名曲が浮かぶ、教授系の曲。特にサビのアレンジは接触事故寸前。
しかし教授系の究極形ともいえる清水ミチコの「メリークリスマスMr.一休さん」ほどの思い切りの良さは無く(当たり前だが)、
サンプリングしてラップを乗せたロットングラフティーや、いっそ原曲に歌詞つけて歌っちゃったつじあやのと比べてもインパクトが薄い。
というか大塚的に教授と無関係なつもりと思われるので比較するのも何だが。
「クラゲ、流れ星」という言葉からイメージが浮かびにくくて消化不良な感じがするので由来を調べてみたが、
ほとんど誰もイメージを共有できないようなとこから来てるので驚いた。空回りしてるのでは。
5.人形 ★★
またもやピアノ弾き語りの、若干古臭い6/8拍子の曲。メッセージ性が強く、彼女が実は感情を押し殺して生きてきたという一面を見せてくる。
マジすか!?かなり意のままに事を運んでる人生だと思うぞアンタ。「ぬくもりがほしくて あたしは男に身をあずける」が生々しい。
もっと詩的な言葉で装飾するならともかく、こうもストレートに表現する人は珍しい。
その手の発言は若いうちはみんなもったいぶって、後々落ちぶれてから言い出すものの気がするが。
もっとも彼女にとって今こそそのタイミングなのかも知れんが。
6.君フェチ ★★★★
あどけない歌い口調で、シーツの中で男とリズムを繰り返すさまをまんま歌う曲。
確かにラブラブの瞬間最高値を記録するのはこういう時かも知れんが、悪びれずに正面から描写するのはかなりの勇気が要りそう。
こういう行動力の高さに飯…大塚愛らしさが出ている。
曲はエセR&BなJ-POPという感じだが、このまどろむようなアレンジが詞の印象をより甘くする効果を発揮している印象。
普通サビの締めに使うようなメロディをいきなり冒頭に持ってきたAメロも面白く、楽曲自体も魅力的。
7.Creamy&Spicy ★
個人的におおよそ大塚愛の曲はこんな感じという印象の、中途半端にキャッチーなロック。
歌詞の乗せ方も雑で、区切り方もおかしく、わざと何歌ってんだか分かりにくくする意図でもあるかのように思えてくる。
詞の内容的にも特筆する点はなく、メロディも長い音符使いすぎて間延びしてる印象。
ピアノが引っ込んだせいか演奏も地味な気が。ロリ元気な歌い方も子供だましな印象。
8.ド☆ポジティヴ ★★
引き続きロリ元気に歌うアッパーなロック。メロディはどうって事ない出来で、歌詞もたいした意味を感じない部分が多い。
ド☆ポジティヴとまで言う割には「ネガティヴ反対」の理由は「あんまり興味もない」という程度で、たいして徹底したポジティヴでもない。
しかし「ストレス反対」の理由を「貯めても家買えない」「そんなことに時間使いたくないやん」と述べる俗物的な彼女は等身大で、
気取って立派なこと言うよりよほど好感が持てる。このサバサバした感じこそが飯…大塚愛の真骨頂なのだろう。
9.360° ★★★★★
4つ打ちリズムに乗せて、ピアノが時にポリリズムを形成しながら次々と引出しを開けてひたすらメロディアスなフレーズを奏で倒す曲。
とにかくピアノで埋め尽くされた演奏に、ほとんど「観覧車 メリーゴーランド」だけの歌が乗り、強制回転のめくるめく感を生んでいる。
こんなSotte Bosseみたいな曲が入ってくるとは。クレジットが手元にないので分からないが、本人がピアノ弾いてるなら会心の出来。
他人が弾いてるならほとんどアレンジャーのおかげで成立してる曲。でもいい曲。
10.シャチハタ ★★★
ブルースの定番コード進行で奏でられるビッグバンド形式のジャズ。
一種のネタのつもりで披露したと思われる大塚のスキャットはまあ適当なのだが、本人の声がババ臭くなったため変な適応力を発揮している。
多分本人的には嬉しくない誤算。牛乳飲んでる同級生を笑かす程度のネタをわざわざ曲にしてマジ演奏でやった行動力は見事。ていうかアホ。
しかしDAIGOが凄すぎたので何だか地味に感じる。
ノンタイなのが信じられないほどシャチハタのCMソングに向いた曲。
11.One×Time ★★★
詞の世界観も曲調もM6と被り気味だが、よりR&Bテイストを強調してシンプルで太いバッキングにした印象の曲。
そしてその分歌がチャチく聞こえる。
彼女の一連のシングル曲の中では作りが丁寧な部類に入るが、印象が薄い面も。
12.ポケット ★
現在はいきものがかり辺りが本流を継承していると思われる、90年代J-POP風の曲。
しかし大塚は歌唱力で劣り、歌詞の乗せ方の無計画ぶりも今作中でも突出してひどいため、かなり厳しい出来栄えの曲という印象。
しかし本人的には「この曲で音楽活動をやめてもいいと思えるほどの曲」らしい。
マジすか!?アンタもっといい曲他に書いてんだろ!自分で書いてる……よね?もう大塚の価値観がさっぱり分からん。
ていうかその発言だけで今までの曲のうちどんだけが完全な自作曲なのか疑わしくなる。実話を元に歌詞を書いたとかで本人的な思い入れが強いのだろうか。
にしても無理矢理曲に当てはめずに詞を調整するとか、曲のほうをいじり直して詞が滑らかに耳に入るようにするとかした方が良かったのでは。
カラオケで歌いにくそうな曲。
13.愛 ★★★
シンプルな曲が多い今作を締めくくるのはやはり王道のバラード。
どこか垢抜けない懐かしい感じのアレンジが中々しっくり来ていて、聴いてると田舎に泊まりたくなる。
自らの名前を冠した曲という意味ではPerfumeの「Perfume」やグリーンデイの「GREEN DAY」のような位置付けか。
文の途中に語感のいい英単語を挟む手法はJ-POPに多いが、この曲は「愛」という日本語にその役割を担わせているのが面白い。
「愛」が一青の「ええいああ」のように母音の連続になっていて、曲全体として柔らかい印象を受けるのも特徴的。
「この手が汚れたとしても あなたを守ることができるなら」といった盲目気味に一途な恋愛感も彼女らしい。
基本的に彼女は計算高い印象なのだが、恋の歌は大体いつもこんな感じなので本命に対してだけは全てを投げうつタイプなのだろう。
広い意味での「愛」について歌ったような、自ら名を呼んで自身の決意を他でもない自分自身に言いきかせているような曲。
総評.★★★
今までになくアーティストらしいが、本来の奔放さがかなり薄れた印象の大塚愛5th。
お馬鹿ブームの最中にあって現役アイドルとの正面衝突を避け、ネタ曲を減らして出来不出来のムラの少ない正統派な曲を揃えて来ており、
これまでの作品に比べかなり守備的でリピート耐性の強い作品。
新規ファンの開拓よりも既存ファンの離脱防止を狙いとしたような印象。大塚がこういう堅い作品を作ると世の中不景気なんだなとしみじみ思う。
変な新人を猛プッシュしてる本社トップよりよほど時流を読んでる気がする。
彼女に何の思い入れもない人間が曲の出来だけで聴き比べた印象では、ベストより出来が良い。
ていうか何かいつもアルバム曲のほうが出来が良いので、シングルの切り方がおかしい気がしてくる。
曲調としては初期星村のピアノロック、初期RYTHEMの和風バラード、いきもののJ-POPといった路線が散りばめられており、地味で堅実。
R&BやHIP-HOPへの適応力がなく、歌い方も狙いすぎててボコーダーでの加工に不向き、8BITサウンドとの相性も悪い彼女は徐々に流行から取り残され始めており、
結果として今までの路線をもっと真面目にやることくらいしか打開策が無かった印象。
しかし喉を潰すのが早すぎたことが誤算となり、歌唱力や元々の声質で稼いでいたポイントを失う羽目に。
一度廃れてライトなファン層が「友達ももうみんな聴いてないし、カラオケで歌うのも私だけだし…」的に離れだすと、実力で見直させて引き止めるしかないのだが、
今作が挽回の決定打になるかは微妙。
個人的には良くなったと思うが、一般的には特徴が無くなったことでのマイナスの方が大きいかも。
特に若い女性からは「なんかダサいし歌い方が男受け狙いすぎでウザイ」と一蹴されかねない。
本人的にも今までより努力したっぽいが、その通りの結果はついて来ずに「思てたんと違ーう!!」と叫ぶさまが浮かぶよう。
大塚どうでもいいという人が何となく聴けば良いかもしれない1枚。
(★5個が満点。)