Reviewer:22nd. 401~405 初芝2009.11.17.
1.疾走 ★★★★
作曲は亀井。タイトルの示す通り疾走感満載なシングル曲。
ピコピコしたギターの音作りが印象的。Bメロからサビへのタメが数小節あり、タメた分だけサビの爆発力が増幅され「絶叫」につながる。
ライブで轟音で聴きたい曲。歌詞はほどよく毒づきながらも前向きな応援ソング。シングル曲にはちょうどいいかな。
2.Vex ★
作曲はバンド名義。訳すと「いらいらさせる」。弦一徹ストリングスが参加。初英語詞。
ストリングスが入っているが壮大感はあまりなくエレキギターと共存している。
メロディーはいたって普通なのだが、問題は歌詞。ぶっちゃけ語彙が中学レベル。さらに中学で習う程度の文法。
歌詞の1行1行で綺麗に文が完結し、よくある英詩の曲とは違って歌詞っぽくない。
もしかしたら狙いなのかと訝しんだんだが、狙いだとしてもちょっとお寒い。
3.Pity on the boulevard ★★
作曲はバンド名義。
アコギと歪んだエレキギターとボーカルが絡み合う激しい前半と対照的に、サビになると綺麗な音の鍵盤が入り一転して優しい雰囲気になる。
でも7分半は長いよ。それにしても田中って「尖った」って言葉好きなんかなあ。
4.Afterwords ★★★★
作曲はバンド名義。
跳ねたピアノのイントロから始まる。Aメロは耳障りのいいメロディーで跳ねたバックギターが心地よくピアノと絡み爽やかな印象。
だが、サビでガラッと雰囲気が変わる。急にスローペースになり、変拍子になるのか、非常にクセのあるサビに驚かされる。
アウトロは前半のような爽やかさを取り戻し完結する。
5.Twangs ★★★★
作曲はバンド名義。訳すと「弦の音、ぶーん(と鳴らす,鳴る)」。弦一徹ストリングスが参加。
低音ボーカルでのアコギの弾き語りから始まり、低いストリング(チェロかな?)が絡み出し、サビでストリングスが本領を発揮し非常に壮大になる。
だが、徐々にストリングがフェイドアウトしアコギのバッキングで終わる。Aメロ2回・サビ1回だけのシンプルな曲。
歌詞は、ファンから見たら「田中しか書けない歌詞」って評価されるだろうなって感じ。
シンプルだが壮大で深みがある佳曲。
6.Darlin' from hell ★★★★★
作曲は亀井。ドイツの詩人フリードリヒ・ヘルダーリンを元にした「田中の古典文学シリーズ」のひとつ。
このアルバムの中で屈指の良メロディー。特にサビ。「アナザーワールド」のような弱起が気持ちがいい。アウトロの突き抜けたボーカルも心地よい。
歌詞は女性目線の別れがテーマ。シングルでもよさそうなキャッチーな曲。
7.Turd and swine ★★★★★
作曲はバンド名義。訳すと「こん畜生とブタ野郎」。大胆な遊びがある。
まずはAメロの英語詞と日本語詞。似た発音を利用した膨大なダジャレ。
簡単に言えば「What time is it now? = 掘った芋いじるな」みたいのが4~5行ある。
まあでもこの手法を用いた人は多いとは思うけど。他には「塊」と「魂」のような言葉遊び。
だが、特筆すべきなのはリフ。かなり歪んだリフがイントロでドカン!と来る。このリフだけでいきなり気持ちを高ぶらせられる。ライブ向きか。
6曲目からの連続で聞くとかなり気持ちいい。
8.小宇宙 ★★★
作曲は西川。エレキギターが全面的に押し出された曲。ボーカルは一貫して落ち着いてはいるが、演奏はギターソロや最後のサビでは激しい。
「そういえばGRAPEVINEはギターロックバンドだったな」と久々に思った。
歌詞は旅立つ誰かを見送っている人が対象。それが恋人であれ家族であれ友人であれ共感を得やすいのでは。
9.NOS ★★★
作曲は亀井。NOSとは「ナイトラス・オキサイド・システム」ではないかという説がある。
始めは低音で抑え目のボーカルだが、サビは裏声が特徴的。韻もかなり踏む。
音作りは前作『sing』の「two」っぽい。曲全体の雰囲気はなんとなくアメリカの荒野で、日本の雰囲気っぽくはない。
歌詞のテーマはよくわからなかったが、歌詞に出てくる言葉が非常に示唆的。
「デフレ」、「デプレッション」「糊口」、「営利」、「ハイリターン」、「食わしてくれよ」といった経済的な言葉と、
「スモーク」、「性能の差」、「排気量の差」、「バーンアウト」といった車に関する言葉。詳しく知ってる人おらんかな。
10.フラクタル ★★★★★
作曲は亀井。個人的にアルバムの中で一番好きな曲。
このアルバム唯一のバラード風。メロディー・演奏はまったりと落ち着いていて、それだけでも十分に良曲。
だが、この曲は歌詞が一番グッとくる。
フラクタルとは図形の部分と全体が自己相似になっているもので、海岸線とか小腸とかが具体例。
海岸線は微視的にみると複雑に入り組んだ形状をしているが、これを拡大するとさらに細かい形状が見えてくるようになり、
結果として拡大しても同じように複雑に入り組んだ形状をしている。海岸線の長さを測ろうとする場合、
より小さいものさしで測れば測るほど、大きなものさしでは無視されていた微細な凹凸が測定されるようになり、
その測定値は長くなっていく。したがって、このような図形の長さは無限であると考えられる。
これは、実際問題としては、分子の大きさ程度よりも小さいものさしを用いることは不可能だが、
理論的な極限としては測定値が無限大になるということである
(wikipediaより引用)。
田中は「明日を塗り潰すフラクタル」、「繋いだ想いはそっと伝えられるだろう いつかの朝へと」とか歌ってる。
個人的解釈だが、田中は“フラクタルという概念で人生を見たらどうなるか”を考えたのか。
人は一生という巨視的レベルで評価できるが、微視的に見ると「明日」や「明後日」といった一日の積み重ねとも見れる。
“所詮てめえの何も成し遂げられない人生なんて、微視的に見てもしょうもない一日の積み重ねなんじゃねえの”と毒を吐いているのか。
もしくは逆に“微視的に見て一日一日「繋いだ想い」は持続すれば「いつかの朝」にはそれなりに実を結び、巨視的に成果が評価されたなら、
それを「繋いだ」過去の一日一日も同じように評価されるんじゃねえの”というポジティブな歌詞なのか。
他にも示唆的なフレーズがあるので是非ともいろんな人に聞いてもらって様々な意見を聞きたい。
11.She comes(in colors) ★★★★
作曲はバンド名義。非常に凝った音作りを行った佳曲。サビのコーラスもワンアクセントになっていい感じ。
ラストのオルゴール音やストリングスが爽やかで、アルバムを通してのエンディングによくあっている。
でも歌詞はちょっとネガティブかな。
総評.★★★★☆
このアルバムでGRAPEVINEのイメージがさらにかわった。まずは声。以前の猫のような声はもうない。年齢で出ないのかもしれんけど。
他には音作り。ストリングスを使った大胆なアレンジは意外だった。
これまでの10作のアルバムを通して考えると、ここまでダイナミックに変化するバンドは他にいるんかいなと感じた。
デビュー時のイメージはもちろん、メンバーチェンジ後のイメージ(『イデアの水槽』)、そして前作『Sing』とも大きく異なる。
やっぱり海外のフェスに参加した経験が大きいとか、陳腐な表現だがそう思う。
でも、それ以上に個々のメンバーがさらに新しいことをやりたいと思ってるのかとも感じた。
現状維持に満足しないという感じ。プロデューサー長田にそうさせられてるのかもしれないけど。
ちなみに、このアルバムは実験作だったとメンバーが言ってたらしい。そう考えると長所・短所が浮き彫りになったので、実験としては成功かも。
短所や懸念としては、まず英語詞。田中は日本語の語彙は豊富なのに英語の語彙はあまり引き出しにないようだ。
また、GRAPEVINEは大なり小なりのライブハウスを回ったり、短時間のフェスにも多く参加している。
だがストリングスが生音で聞けるようなライブができるかどうか懸念がある。
ミスチルだったらツアーメンバーにストリングスを組み込めるけど、そんな規模のライブはなかなかできないだろう。
過去には「Everyman,everywhere」のストリングスをシンセでやってたライブがあったが、やっぱり味気なかった。
ストリングスアレンジの曲は結局CDのみでしか聞けないのかと思うとちょっと寂しい。
長所ももちろんたくさんある。
前述の現状維持に満足しない姿勢だけでなく、相変わらず亀井の作るのメロディーは綺麗だし、田中の日本語詞は底なしだ。
演奏もうまく、それをライブでほぼ再現できる腕もある。まあ私はDVDしか見たことないけど。
これからどう進化していくのかさらに後追いしたくなるあるバンドだと確信した。
けど、大きく売れないんだよなあ~。このアルバム5000枚くらいしか売れてなかったけなあ~。みんな買ってみてよ~
(★:1点,☆:0.5点の計5点満点。)
Reviewer:23rd. 335-337 名無しのエリー2010.05.08.
1.疾走 ★★★★
アルバム唯一のシングル曲。タイトルから受けるイメージとは違い、紆余曲折を経てサビに行きつくのがバインらしい。
それぞれの楽器が特殊な動きをしていて技巧的な印象を受ける。
2.Vex ★★★
全英語詞ということで話題に上った曲だがそこまで印象に残る歌詞ではない。日本語詞ほどの自由さを発揮できてないような気がする。
メロディは独特で、アレンジによって増幅された浮遊感が何とも言えない。
good my worldのような形容しがたい曲。
3.Pity on the boulevard ★★
野太いギターの部分と温かい部分の対比が妙。なんとなく野外ライブに適してそう。
ボリュームがあってなお7分以上と長いので、アルバムを初めから通して聴く時はこの辺りで疲れてくる。
バンド全体で影響を受けているという某海外バンドの雰囲気も感じられる。サビの鍵盤の絡み方とか特に。
4.Afterwards ★★★☆
3の明るいエンディングを引き継ぐ、カラフルな印象の曲。1~3と重めの曲が続いたので聴きやすい。
ただ歌詞は「おわかれを云わなきゃ」とか、「いくつかの罪を頬張って」と結構重たいことを言っている。
5.Twang ★★★★
タイトル曲。サビのストリングスの盛り上がりで背筋がゾクゾクする。
この曲に限ったことではないが、田中は歌い出しの時の声が非常に魅力的になってきた。
少ない演出や言葉数でここまで聴かせられるのは素直にすごいと思う。
6.Darlin' from hell ★★★★☆
個人的には前半のハイライト。カントリーミュージックさながらの呑気さと、鍵盤の上品さが共存している。
作りこみにしても「なぜこれがシングルじゃない!?」と思えるほどの完成度。まあGlareみたいに候補だったのかもしれんけど。
一切の迷いを断ち切った潔さをもって堂々と前半を締めくくる。
7.Turd and swine ★★★★
上品な曲調が続いてきたが、ここでいい感じに吹っ切れた曲が聴ける。田中のシャウトが聴けるのも1とこれくらい。
イントロやAメロでは激しいが、サビでは静寂が訪れ「皆行ってしまったよ…」と英語で静かに歌い上げる。
この対比の妙と凝った歌詞により、聴きこむごとに魅力が発見できる曲になっている。
ここからの曲は今までのアルバムの中でも屈指のクオリティのものが続く。
8.小宇宙 ★★★★
優しく親しみやすい雰囲気の曲だが、Twangと同じく言葉数が極端に少ない。
構成は最近の曲に多いA→サビ→間奏→大サビというものだが、大サビ後半でピコピコ音が鳴ってるのに最近気づいた。
歌詞は抽象的だがどんな立場の人でも想像できそう。「君の睫毛は時計の針に勝てる気がしたよ」という表現が素敵。
9.NOS ★★★★
気だるい雰囲気の曲。自営業の車屋が転職を考えながら悩んでるような歌詞。最初英語かと思っていた。
盛り上がるとか落ち着くとかという表現とは程遠いので、これをどうライブで使うのかが気になる。
…とか思ってたが、気づいたら口ずさんでいるという恐ろしいスルメ曲。
10.フラクタル ★★★★★
バイン屈指の傑作。今回も最後から1つ前の曲は名曲、というパターンを見事に踏襲してくれた。
曲調はどことなく夜を感じさせる、暗い、悲しいとか人間臭い表現を超越した雰囲気。
もちろん無機質というわけでもなく、「繋いだ思いはきっと伝えられるだろう」と希望を託してアルバムは終点に向かう。
11.She comes(in colors) ★★★★
ラストにふさわしい、涼しげで爽やかな曲。ところどころに転がる石達のパロディがある。
終始活躍する鍵盤と終盤のストリングスがきっちりと幕を閉めてくれる。
総評.★★★★☆
バインの記念すべき(?)10作目のアルバムとなった今作。
実験的要素が強いとはいえとっ散らかったイメージはあまりなく、曲単体の質も高い。バンドとして器用になってきたんだなあと思う。
話題のなさは気になるが、まあ真っすぐでキャッチーな曲やロックロックした曲がほぼ皆無だから、気に入るまで時間がかかるのは分かる。
だがその制作過程で緻密な工程を経ていることもまた事実なので、ある程度バインに慣れてから楽しんでほしい作品である。
(★:2点,☆:1点の計10点満点。)