アルバム全曲レビュー * アーティスト名 : はまだしょうご。

Reviewer:24th. 587-592 名無しのエリー2011.02.25.

(Disc.1)
1.A New Style War ★★★★☆
オープニングはバンドサウンド+シンセ+ブラスと華やかかつ勇ましいイントロから始まる。
が、タイトルを見ても分かる通り歌詞はプロテスト色が強く、1番から
「国家に養われたテロリスト」 「飽食の北を支えている飢えた南の痩せた土地」と、中々痛いところを突いてくる。
若干説教臭く聞こえることもあるが、それはそれで彼の書く歌詞の持ち味なんだろう。
1986年と言えば冷戦も終結せずドイツも東西に分かれていた時代の曲だが、そういった背景を分かった上で聞いた方が良さそうだ。
2.BIG BOY BLUES ★★★
シングル曲。EP盤では一番の売り上げで、10万枚のセールスを残している。
成功を手にしてもなお憂いを抱く青年の姿が描かれている。この曲から得た構想がこのアルバムのテーマに繋がって行ったらしい。
ソウルフルな浜省のシャウトと、スピード感溢れるギターソロはこの時期だからこそ聴けるもの。
裏でやたらとキラキラ鳴っているシンセは若干過剰か。
3.AMERICA ★★★★
タイトルからしてまんまで、曲調は古き良き60年代のカントリー風。
淡々と歌い上げる浜省をバックに、これでもかというほど感傷的に広がるコーラスが妙にノスタルジック。
当時の日本のロッカーの強いアメリカンコンプレックスを露にした歌詞は、今の世代には若干理解しがたい面もある。
そういや浜省は「和製Bruce Springsteen」とか呼ばれてたからなぁ。
4.想い出のファイヤー・ストーム ★★★★★
明るく砕けたアップテンポナンバー。
「タフ」だとか「クイーン」だとか恥ずかしい単語が頻発するが、時代なのかそれとも浜省が既に古臭かったのか。
パンキャッシュなノリにBeach Boys風のコーラスが重なり、巧いところで攻撃的になることを抑えている。
シンセは相変わらずキラキラだがメロディに丁度良く重なっているので良し。
5.悲しみの岸辺 ★★☆
イメージ的に過去の曲「丘の上の愛」とカブる。が、あまり「丘の上の~」ほど華やかなメロディではない。
この曲の一番の弱点は、サビが弱いところだ。Bメロから大した引っ掛かりもなく、妙に薄ら寂しい。
が、裏を返せばAメロからBメロにかけての出来が良いということもあるので、サビだけで判断するのもどうかと思うが…。
いずれにせよあまり好きにはなれない。
6.勝利への道 ★★★☆
前曲のうやむやな感じを全て取っ払うかのように、太く歪んだベースの音から始まる。
曲自体はタイトルから大体予想はつくだろうが王道のアップテンポナンバーであり、突っ込むところも特に無し。
イントロのベースは曲全編にブイブイと響き渡るので、それが中々心地良かったりする。
後は、キレが良く大合唱したくなるようなサビも高ポイント。
7.晩夏の鐘 ★★★
サックスを主体としたインストバラード。
こういうの誰かが演ってるよなぁと思っていたら、デビュー当初のDIMENSIONだった。とは言うもののこっちの方が6年早い。
特にメロディが突出しているわけでもなく、演奏も普通に巧いので面白くもなく。
箸休めとしては絶好のポジションだろうが。2枚組超大作の中間地点のお知らせ、といったところか。
8.A RICH MAN'S GIRL ★★★★☆
イントロだけ聴くとThe Policeかと勘違いするほどそのもの。ニューウェイブ系に影響を受けているとは到底思えないが。
終始ご機嫌なシンセサウンドが全体を包み、このアルバムの中では最もポップな出来。
歌詞はタイトル通り、金持ちの男に付いていってしまった女を描いているが、いかにもバブル臭漂う。
しかし、その裏にはバブルに対する皮肉がありありと感じ取れる。
9.LONELY - 愛という出来事 ★★★
正直「丘の上の愛」とカブる「悲しみの岸辺」と更にカブっているが、メロディがしっかりしている分こっちの方が好み。
間奏のサックスは渋いが、それ以外の聴き所は特に見当たらず。
リミックスや再録などが計4バージョンあるが、本人が気に入っているのかどうかは知らないが流石に多すぎだろう。
しかも一応シングル曲だが、B面が「もうひとつの土曜日」なだけに、更に自分の中では地味な印象となってしまった。
10.もうひとつの土曜日 ★★★★★
浜省のバラードには元々定評があるが、その評価を不動にしたものがこの曲。
メロディパターンが2つしかないシンプルな曲だが、決して退屈に感じさせないアレンジ力と歌詞が素晴らしい。
物語調の歌詞は練りに練られており、聴く人を恐ろしいまでに引きつける力を持つ。
ラストのAメロで演奏がベース、キーボードのみとなるが、アウトロで一気に盛り上がってフェードアウトするところも憎い。
一般知名度も相当高いが、コアなファンでもこの曲がベスト、という人は多いはずだ。
(Disc.2)
1.19のままさ ★★★★
若干アップテンポなポップナンバー。2枚目の幕開けである。
相変わらず淡々と歌い上げる歌唱法にばかり気を引かれるが、妙な懐かしさを覚えるメロディは浜省独特なもの。
ただ、アレンジ的にも歌唱的にも後に再録されたバージョンの方が個人的には好みだ。
歌詞は男女の交際から別れまでを、社会人になった男側から回顧するというもの。ありふれているが普遍的な良さがある。
2.遠くへ -1973・春・20才- ★★★★☆
前曲からの続き物というか、殆ど同じシチュエーションであるが、ファンから言わせれば根本的に違うそうだ。
一昔のホームビデオのタイトルのようなタイトルが印象的だが、1973年に作ったものを、ほぼそのままこのアルバムに入れたらしい。
そのためか、「赤いヘルメット」など学生運動を匂わせるフレーズがあちこちにあり、色々な意味で時代を感じさせる。
8分もの大作だが、こういう曲はコンパクトにまとめても意味が無いものかもしれない。
3.路地裏の少年 ★★★★★
知る人ぞ知る、浜省デビューシングル曲の再録版。
当時はアコギがメインのフォークソングだったが、いつの間にかアコギはエレキに変わりシンセやサックスが入り、随分と様変わりした。
やはり前曲からの続きものらしく、時代背景は3曲連続同じ位置に置かれていることになる。
収録時間の都合により原曲ではカットされていた3番が新たに追加され、一応これが「完全版」という形になっている。
現存曲の再録の割には、違和感もなく当然の如くスッポリと収まっている。このアルバムの特色に見事にはまっているからだろうか。
4.八月の歌 ★★★
続き物が終わり、ここから最終曲までは独立した曲が並ぶ。
「勝利への道」と同系統に位置する王道アップテンポナンバー。かすれたサックスが良い響き。
このアルバムの中では最も端的に日本を風刺しており、聴きようによってはどこかの誰かが激怒するようなフレーズも。
ただ、その割にはアレンジが平凡すぎやしないか。
5.こんな夜はI MISS YOU ★★★★
浜省の作品に時々紛れているアカペラナンバー。
途中からベースやパーカッションも入ってくるが、基本的にボーカルとコーラスで構成されている。
アカペラにはなんと言ってもメロディの良さが求められるが、実際良いのでなんとも言えない。
あまり長く続けられる曲調でもないので、2分を少し過ぎたところであっけなく終わる。
6.SWEET LITTLE DARIN' ★★★☆
前曲に引き続き、コーラスワークが際立つ3連バラード。
前半は大した盛り上がりもなく聴いていて少々退屈になってくるが、後半でブラス隊が一気に導入される。
そこからの展開はまるで50年代のアメリカンポップスのような感じで、これも悪くない。
メロディは多少難あり。
7.J.BOY ★★★★★
タイトル曲。アルバムの終盤にして本作の白眉。
バブル景気前夜の1986年に書かれたこの曲だが、歌詞に書かれている社会的背景は現代でもまったく変わっていない。そこが恐ろしい。
曲調は勇ましいアップテンポなものだが、「勝利への道」や「八月の歌」を遥かに凌ぐ見事な出来栄え。
感情的なギターに派手なブラス隊がミックスされ、凄まじい高揚感を醸し出している。
また、間奏前のブリッジで、徐々に盛り上がっていく展開にも鳥肌が立つ。まさに昭和末期、20世紀末期を代表する名曲。
8.滑走路 - 夕景 ★★★★☆
おぼろげなシンセから始まるインスト曲。アルバムのラストナンバー。
「晩夏の鐘」の主旋律はサックスだったが、こちらはギター。いかにもな古き良きJ-FUSION。
まさに「夕景」そのままの情景がいかにも浮かんでくるようなフレーズの連発であり、リスナーをとことん泣かせようとしている。
長い長い2枚組超大作の締めを巧く担っている。
総評.★★★★★
元々プロテスト色が強かった浜省だが、その集大成とでも言うべきアルバムがこの「J.BOY」だった。
2枚目の最初の3曲をはじめとする昔の自分への回顧、そして「A New Style War」などのこれからの世界への警鐘と、
昔と今の膨大な作品群を一気に纏め上げる役割を果たしていると言える作品だ。
それだけでもこのアルバムの必要価値は相当高いのだが、何よりそれを決定付けるのはこのアルバムが発売された時代の背景だ。
1986年はバブル経済の寸前、異常なまでの景気の上がりように戸惑いつつも、それに乗っかって浮かれていた時代だが、
浜省はそれを一歩引いた視点から見上げ、第三者の位置から「J.BOY」を書き上げ、その浮かれ騒ぎように疑問を投げている。
つまり、極端な話だがこのアルバムにはバブル時代の歴史的資料にもなる文化的価値が備わっているわけだ。
あれから25年余り、世界はなお発展を遂げつつあるが、基本的に日本人の生活は何も変わっていない。随分と怖いことだと思う。
これからの日本はどう転がっていくのか、その重要な足がかりとなるアルバムだ。好き嫌いは抜きにして名盤であることには間違いないだろう。
(★:2点,☆:1点の計10点満点。)