Reviewer:13th. 787-791 名無しのエリー2006.12.14.
1.ハナミズキ ★★★★★
言わずと知れた代表曲。ファン以外にはあまり知られていないが、911を題材に書かれた曲。
その前提で歌詞を読むとストーリーが理解しやすいだろう。
こういったテーマはどうしても強い主張になりがちだが、この曲は直接的な言葉を使っていないのが特徴。
そのため、単に結ばれない相手を思う恋の歌とも聴くことができる。こういった多面性も彼女の歌詞の魅力のひとつであろう。
そして魅力といえば、やはりその独自の言い回し。代表例がサビの「夢がちゃんと終わりますように」の部分。
「夢」に対する述語は叶うが一般的であり「終わり」という単語をポジティブな意味で使うことは普通しない。だがそれだけに強烈なフックとして頭に引っ掛かる。
またこれは「僕」の「終わり」(本来のネガティブな意味)を連想させることで「君」の「終わり」(ハッピーエンド)を際立たせる効果もある。
さらに、その後の「続きますように」とも対句になっており面白い。
「君と好きな人が百年続きますように」
世界平和をテーマにしながらも大げさに語ることなく、まず身近な人間の幸せから願っていこうというメッセージ。
2.翡翠 ★★★
切ない恋の歌ではあるが、不倫を連想するのはひねくれすぎだろうか。
「雨」を使った心理描写はオーソドックスだが、刹那的な恋心と「宝石」=「永遠」の対比はユニーク。
サビでは「そのうち」「今のうち」「気持ち」としっかり韻を踏んでいる。
3.もらい泣き ★★★★☆
鮮烈なインパクトを持つデビュー曲。言うまでなく「ええいああ」に尽きる。
本人曰くインパクト重視で特に意味はないらしい。その目的は十分果たしているだろう。
母音のみで構成されているのもミソ。子音が入らないため音が抜けずに、込めた感情が伝わりやすい。
4.一思案(ひとしあん) ★★★
詞の朗読+サビという異色作。
独自の単語の羅列でややシュールだが、バックのリズムに乗っかることでノスタルジックな異世界感を生む。
流れるようなサビが心地良い。
5.月天心 ★★★
「満月」を「天」の「穴」と捉え、心に重ね合わせた哲学的な作品。広がる夜空のような雄大さとそれゆえの寂しさを感じる。
少し難解でとっつきにくいかも。
6.影踏み ★★★★
ノスタルジックな単語が散りばめられた郷愁をさそうような名バラード。しかしこの詞がまた結構曲者。
難しい単語は一切使っていないんだが、複雑に入り組んでいて読み取りにくい。特に「僕」「君」という人称指示語が誰を指すか。
「天の川」~のくだりや「いつの間にか大きくなって」などから「僕」と「「君」の隔絶、それもおそらく死別であることが想像できる。
両親を亡くしている彼女の背景から考えて、「僕」=父と読むと理解しやすい。亡き父が空の上から娘を見守っているシーンが目に浮かぶ。
そして「突然、夢が醒めて」で視点を現実(娘=「君」)へと引き戻す。つまり、父が天より娘を見守っているという夢を見ている娘の歌。
ややこしい。
7.うれしいこと。 ★★☆
珍しく素直で可愛らしい恋愛詞。こういうのが逆に新鮮だったりもする。
遠距離、あるいは時間的すれ違いの多いカップルの曲だろうか。「あたし」が彼に対してその不安を語りかける感じかな。
最後に「あたしも気づいてみたら/すごく愛されてたよ」と結んでいるので心配はない。
8.江戸ポルカ ★★★
ドタバタ時代劇コメディ、ポルカ風。お得意の言葉遊び全開。
やりすぎでくどく感じる人もいるかもしれないがハマれば癖になる。
9.大家(ダージャー) ★★★☆
コレもまた亡くなった両親への詞。しかし他と違って、感謝や懐古ではなく自身の決意表明に近い。
「なんてひどい人生」でも「美しい人生」。「早く死ぬのもいい」でも「生きていける」。「ひとりぼっち」でも「こんなに」「泣く人がいる」。
だから「だいじょうぶ」。
常に正逆を行き来するように揺れるが、芯には強い肯定が感じられる。
10.さよならありがと ★★★★
別離の切なさを歌った曲ではあるが、その理由や境遇がはっきりと書かれていないので、聴き手に個々の思いを抱かせる。
サビの締め「今でもきっと/僕、の方が」の後に来る言葉も聴き手によって変ってきそうだ(ラストが「今なら」になってるのもミソ)。
「えこひいきした道」「また少しだけ君の事/無断で好きになったけど」「皮肉だけど憎んで」「また明日が言えなくても/きれいに笑う君がいる」
など、独特の言い回しもアクセントになっている。
11.指切り ★★★
「指切り」を約束=結婚の比喩として考えるなら、ここでも不倫を連想してしまうがひねくれすぎだろうか。
失礼な話だが、そういう不幸な恋愛のほうが彼女には似合ったりする。
プロデューサー小林武史からストレートな表現を提案されたそうで、以前のような言葉遊びはあまり見られない(押韻はしっかりしているが)。
12.アリガ十々 ★★★★
今は亡き父親へ向けた感謝と思慕の曲。簡単な単語でシンプルに構成された少女的な歌詞がほほえましい。
それでいてキッチリ七五調に語数を合わせているのが芸が細かい。
緩やかなメロディに乗って一語一語を大切に歌っている印象。
13.かざぐるま ★★★☆
藤沢周平原作の映画『蝉しぐれ』イメージソングであり、詞の世界もそれを踏襲している。
結ばれることがなくとも相手を思う恋心を「かざぐるま」をまわすための「風」に例えた。
そういった日本人的感情が和のテイストを含んだ楽曲に良く合う。
14.金魚すくい ★★☆
いい意味で安っぽい電子音の打ち込み、「さらさらいや」等の独自の擬音。シュールで落ち着かない感じは縁日の不思議な高揚感にも似る。
詞の内容自体は「金魚」を恋(あるいは恋人)に見立てたわかりやすい比喩。
15.あこるでぃおん ~Long ver. ★★★☆
「音楽室」「5時限目」「げた箱」等ノスタルジックな単語が並び、初恋の切なさを思い起こさせられる。
サビの「親指」を「おやひゅび」と発音することで、後の「しゅるりしゅるり」という独自の擬音によく絡む。
16.てんとう虫 ★★★☆
「なのに」といきなり接続詞で始まる掴みはインパクト有り(少しあざとい気もするが)。
「世界は何のためにあるのか」と問いかけ、ラストの大サビで「そうじゃなく/あなたもわたしもそのためにある」と切り返す視点変換が見事。
マクロをミクロからとらえるのはハナミズキとも通じる。「てんとう」のダブルミーニング(天道=太陽と虫の対比)もそこに繋がるのだろう。
パーソナルな恋愛詞ともとれるが、ap bank fesのようなチャリティ活動について語ってるようにも感じる。
そういう風に意訳すると、
ただ世界の不幸を憂うはやめて、小さなことからでも世界を変える努力をしよう。たとえそれが偽善でも、誰かの為になるならいいんじゃない?
ちょっと深読みしすぎかな?
総評.★★★★
歌詞について評価されることの多い彼女。ということで今回は歌詞を中心に書いてみた。星(★=1点、☆=0.5点、10段階)も詞に対してのもの。
シングル全曲とアルバムからの選曲に新曲を加えたベスト盤。
まだアルバム3枚しか出してないのでちょっと早い気もするが、ただそれだけに入れて欲しい曲は大体入っていて選曲には文句なし。
ただ既存のファンにとって新曲1曲に3000円は高い。せめてDVDを付けるくらいの配慮は欲しかった。
しかし、当たり前だが入り口には最適。週末にはレンタルも解禁されるので、「もらい泣き」「ハナミズキ」しか知らない人もどうぞ。
これに気に入れば次は他の作品も手にとってもらいたい。
女性ソロシンガーにしては珍しくCDよりもライブ方がファンの評価が高いので、4枚あるライブDVDがオススメだ。
(★:1点,☆:0.5点の計5点満点。楽曲収録情報は省略しました。)